お米は余るほど生産し
備蓄米は有効利用すべきです
「行動する食品学者」大妻女子大学家政学部教授
大 森 正 司さん
〔プロフィル〕 おおもり まさし 1942年、宮城県生まれ。東京農業大学大学院農芸化学専攻博士課程修了。現在、大妻女子大学教授(家政学部長)、農学博士。「行動する食品学者」として国内外で「ごはん食とお茶」を中心に調査・研究。マスコミで広く活躍中。著書は『日本茶インストラクターに学ぶお茶の本』(BABジャパン)など多数。
いまやテレビで「お茶の博士」として有名な大森正司先生は「行動する食品学者」としてマスコミでも広く活躍しています。昨年秋、『お米マイスターが勧める ごはんで健康になる本』(キクロス出版発行・BABジャパン出版局発売・880円)を発刊しました。お米のすばらしさと健康食である「和食」の良さをより多くの人に知ってもらおうという本です。研究や執筆、講演などで忙しい合間をぬって、お茶とお米について貴重なお話を伺いました。
「瑞穂の国」の「日常茶飯事」
私は、お茶の本を書いたり、テレビでお茶と健康の話をしますので、茶が専門と思う方がいますが、米の研究は大学院時代から続けてきました。こうした研究のなかで、「瑞穂の国」の「日常茶飯事」という古くからの言葉に注意が向き、お米とお茶は非常に大切なものという思いを強く抱くようになりました。
米を研究の対象にしたのは、それが最初ですが、お茶の研究では「ギャバロン茶」があります。今から十七年前、一九八九年から作り始めています。
お茶は一番茶を五月二十日ころ、いっせいに摘み取ります。茶葉は一日経つごとに値が安くなる。摘み取りはできるが、工場の方が追いつかない。摘んだ葉を全部、冷蔵庫に収容できればいいんですが、コストがかかり過ぎる。野菜を炭酸ガス中で保存すると鮮度を保てる。「じゃあ、炭酸ガスや窒素ガスの中に入れておけば」ということになりました。
ところが、五月〜七月、二番茶、三番茶を窒素ガスの中に入れておくと、ぬれたタオルを中にいれておいたようになえてくる。香りもおかしくなっていて、原因を分析してみたら、「ギャバ」が非常に多かったんです。
ギャバについて文献を調べたところ、一九六三年にH・C・スタント(アメリカ)という人の「ギャバは単独で猫や犬の血圧を下げる」という報告が載っていたんですね。
そして実際に血圧の試験をやってみたら、きれいに下がるんです。そこで「このお茶は血圧を下げる働きがある」として、ギャバのウーロン茶――「ギャバロン茶」と名付けたわけです。
この研究成果を発表したところ、中国農業試験場から「玄米を水に浸しておいたらギャバが増えた。試験をしてほしい」という依頼があり、試験してみたら血圧がきれいに下がったんです。
東南アジアで米の麺と出合う
それ以来、玄米をはじめ、いろんな実験をやりました。そして「発芽玄米」だけでなく「発芽雑穀」などもギャバが増えることが分かりました。
収穫した米を籾(もみ)で保管しておき、いざという時に発芽させると、発芽玄米になりますが、モヤシにもなります。つまり、穀類を野菜にすることができるわけです。野菜は食物繊維とビタミンCの供給源です。
私はお茶の研究のため東南アジアなどによく出かけます。山奥に入っていくと、いろんな少数民族が暮らしています。その人たちはお米を主食にしていますが、保管や脱穀、精米などをどうしているかというと、米を二日間くらい水に浸しておくわけです。
すると、発酵してきて簡単に米粒がつぶれるようになる。それを石臼(うす)でひいてドロドロになった米を袋に入れて搾るんです。袋に残ったものを底に穴を開けた筒の中に入れて、グッと上から押すと、ニョロニョロと出てきて麺(めん)になります。米の麺です。これが、中国ではミーセン、ベトナムではブンとかフォー、タイではカノンチーン、ミャンマーではモヒンガーとか呼ばれていますが、実においしい。
異常気象で心配なのは食糧不足
日本は、食料自給率が四〇%まで低下しても、減反を続けてきました。私は腹が立って仕方がなかった。「減反をやめなさい」と言ってきましたが、「こんなことをしていたら、いつか必ずシッペ返しがくる」と言いたい。お米をしっかり作って、きちんと食糧を備蓄すべきだと考えています。
いま地球の異常気象が心配になっていますが、これ以上悪くなれば大変なことになります。もし世界的な食料不足になったら、どの国も自国民に食べさせることを優先しますから、日本が輸入するのは難しくなります。
生産して余ったお米は備蓄しておいて発芽玄米にして食べればいい。健康にも良いし、野菜にも活用できる。そうすれば食料も安定供給できるし、有効利用できます。米の麺とかライスペーパーとか、粉食として食べればいいのです。
ソバアレルギー解決できれば…
さらに、低アレルギーの米やソバも作ることができます。日本では少ないんですが、米アレルギーの人がいます。
米を水に浸して二日間も放置しておくと、微生物が出てきて発酵し始めます。その米には、アレルギーの原因といわれる特定のタンパク質がなくなっているのです。
日本人に多いアレルギーはソバです。米由来の酵素を使ってアレルゲンタンパク質を除くことができれば、ソバの活用はさらに広がると思います。そういう応用研究も広げているところです。
(聞き手)角張英吉
(写 真)塀内保江
(新聞「農民」2006.5.29付)
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