「農民」記事データベース20060529-733-05

農産物の輸出拡大で
アジアの農民は
豊かになっているか?


 WTOやFTAの進展によって、アジアから大量に輸入される農産物や加工品。マスコミや一部の生協には、「アジアからの輸入拡大で、現地の農民が豊かになっている」かのように主張する人がいます。実際はどうなっているのでしょうか。

 農業収入は低下し借入金はふえる

 東南アジアで最大の農産物輸出国タイでは、WTO農業協定によって、世界市場へのアクセスが可能になり、近年、農産物輸出が急速に拡大しています。

 農産物輸出額は、一九九五年の四千百二十五億バーツ(百三億ドル)から二〇〇三年には八千四十二億バーツ(二百一億ドル)へと倍増。米輸出額も、十億ドルから二十億ドルに倍増し、二〇〇四年には精米換算で一千万トンを突破するなど、記録を更新しています。

 しかし農家の一戸当たり年間農業収入は、一九九五年の二万九千八百十一バーツから九九年には二万六千八百二十二バーツに低下し、農家の平均借入金は一九九五年の二万四千六百七十二バーツから二〇〇一年には四万八千四百十五バーツへと増加。借金農家数も、二百八十万戸から四百七万戸に増えています。

 農家庭先米価は輸出の半値以下

 東北タイのNGO組織「タイ貧民連合」はその原因について、「農民は自ら米価を決められず、精米業者や輸出業者が一方的に決めてしまう。農家は借金返済のために、収穫後すぐに米を売り払うが、大規模集荷業者は買い入れた米を倉庫に蓄えて値上がりを待つ」と説明しています。

 一九九八年の例で見ると、タイ米(モミ換算)輸出価格(FOB)は、一トン当たり九千三百三十六バーツ(二百三十三ドル)でしたが、この年の農家庭先価格は、四千五十八バーツ(百一ドル)と輸出価格の半値以下。米の生産費は、一トン当たり四千九百バーツですから、明らかに採算割れの米価です。

 アグリビジネスが、ヒナとエサを提供し、成鶏の買い取りと処理・冷凍加工・輸出を担当して、付加価値を大きく確保しているブロイラー産業では、さらに仕組みは明瞭です。

 タイの鶏肉輸出量は、一九九五年の十四万九千トンから二〇〇三年には三十七万千トンへとほぼ倍増していますが、生産者価格(成鶏)は一キロ当たり九五年の二十五・五バーツから〇三年は二十六・四バーツ。

 これに対して、輸出価格(冷凍・FOB)は一トン当たり九五年の六万四千四百六十二バーツから〇三年には六万六千八百六十七バーツ、〇四年は七万八千六百八十バーツと、農家手取りの実に三倍になっています。

 “半値で売っても倍もうかる”

 アジア産品は、「半値で売っても倍もうかる」と言われています。日本の進出企業による「アジア食品産業共同体構想」が、小泉「二十一世紀新農政」で提起されていますが、こうしたWTOとFTAによるアジアからの農産物輸出の拡大は、もっぱら双方のアグリビジネスがその利益を収めてしまっており、現地の生産農民は相変わらずの低価格と貧困を余儀なくされているのです。
(山本博史)

(新聞「農民」2006.5.29付)
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2006年5月

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