「農民」記事データベース20060515-731-14

九割の農民を生産からしめ出す

品目横断対策とどうたたかうか

農民連全国交流会から

関連/品目横断的経営安定対策に対する農民連の態度と要求
  /交流会参加者の発言(要旨)


自給率向上のため価格保障を軸にした
経営安定策を要求する運動を広げよう

 九割の農民を農政の対象から外して、生産からしめ出す「品目横断的経営安定対策」――これとどうたたかうか――。農民連は四月十六日、都内で全国交流会を開き、三十二道府県から約百三十人が参加しました。地域の実情を無視したゴリ押しによって起きている各地の矛盾や、農民、農業関係者が抱える苦悩・要求などを出し合い、たたかいの方向を意思統一しました。

 佐々木健三会長の開会あいさつに続いて、笹渡義夫事務局長が常任委員会からの報告を行い、真嶋良孝副会長が、農民連として提起し、広範な国民の討論に付す「食糧主権宣言(案)」(5月22日付の新聞「農民」で全文掲載)を提案しました。

 小泉農業構造改革のテコの役割

 いま、「品目横断対策」が、「農」のつく団体をあげて翼賛的にゴリ押しされ、農家はもちろん、推進にかり出されている行政や農協の中にも矛盾を広げ、農村に大混乱を引き起こしています。対象になる農家はごく一握りになることがますます明らかになり、政府は国会で「対象は何人いるのか」という質問にまともに答弁できない状況です。

 笹渡事務局長はまず、小泉内閣が推進する「農業構造改革」の本質は何かを解明。「グローバル化を外圧として利用し、規制緩和、市場主義、弱者切り捨てを進め、多国籍企業化した大企業が一人勝ちする社会構造に国家改造するのが小泉『構造改革』だ。そのなかで進められている『農業構造改革』は、戦前の暗黒政治の反省から生まれた家族経営を守るための農地制度、価格保障、国境保護などをバッサリ否定する戦後農政の最終決算と言うべきものであり、『品目横断対策』はそのテコの役割を果たしている」と指摘しました。

 食と農を守る国民的反撃を

 そして、このイデオロギー攻撃に対する反撃を強調。「農民や農業団体を“負け犬”にしたうえで『乗り遅れるな』という宣伝が洪水のようにされ、価格保障は『ばらまき』、小規模農家は『非効率』、高齢農家は『邪魔者』、そして農地に愛着をもつ農家は『抵抗勢力』であるかのようなレッテルが張られている。こうしたイデオロギー攻撃をはね返して、食と農を守る国民的な合意を築こう」と訴えました。

 そのうえで笹渡氏は、「品目横断対策」の及ぼす影響について、(1)「品目横断対策」はWTO・FTAによる関税削減・撤廃が前提であり、対象になった農家の経営もけっして安定しないこと、(2)これまで地域農業を支えてきた集落の助け合いや生産調整機能が破壊され、米価の大暴落を引き起こす恐れがあり、食料自給率の向上にも逆行すること―を明らかにして、農民連の「品目横断対策に対する態度と要求」(別掲)を提起。

 たたかえば新たな展望が開ける

 さらに、「準産直米」など、消費者、流通業者と提携した販路づくりの重要性を強調するとともに、「いま、たたかえば組織を前進させられるし、組織を飛躍させれば地域農業を守る新たな展望も生まれる。対策の対象になる農家と外される農家の両方を視野に入れ、農民連がリーダーシップを発揮して、地域農業を守る先頭に立とう」と呼びかけました。

 続いて真嶋副会長が、「食糧主権は、WTOに対抗するうえではもちろん、小泉改革に対抗するうえでも大局的な対案の方向を示している」と述べて、「食糧主権宣言(案)」の内容を詳しく紹介。「農業と食糧からWTOを追い出し、地域レベル・国レベル・世界レベルの連帯と運動で、食糧主権を確立しよう」と訴えました。

 討論で、千葉の越川洋一さんは、横芝光町の農業委員会が行ったアンケートで「農業を続けたい人はすべて担い手として支援すべき」という回答が多数を占めたことなどを紹介。兵庫の芦田浅巳さんは、零細農家が大部分を占めるなかで二十五の集落営農づくりを押し付けられた丹波市の現場の苦悩を告発。さらに各地から、地域で起きているさまざまな矛盾が赤裸々に語られました。(発言要旨別掲)

 笹渡氏はまとめで、「品目横断対策への対応は、あくまで地域の生産を守ることが基準」だと強調。「大いに作って、売って、元気を出し、地域の要求を積み上げて、農水省に攻め上がろう」と呼びかけました。


品目横断的経営安定対策に対する農民連の態度と要求

◎「品目横断的経営安定対策」を中止して、すべての農家を対象に、価格保障を軸にした経営安定対策を実現すること
◎農家の声を無視したゴリ押しをやめ、少なくとも、すべての農家が制度を理解して判断できるように開始を延期すること
◎現場で生まれている「品目横断対策」の矛盾を改善する運動を、制度そのものを問う運動として展開し、事実上、機能不全に追い込む
◎「品目横断対策」の対象になることを優先するのではなく、地域の生産を守ることを最優先にした地域ぐるみのとりくみを進める
◎地域の条件を踏まえた「集落の助け合い組織」をつくり、生産の拡大、加工、販路の確保など、生活と生産、経済の基盤である集落を守る


交流会参加者の発言(要旨)

地域社会の崩壊招く

 北海道音更町・山川秀正さん

 私の住む音更町と隣の士幌町は、三月議会で「品目横断対策を再考し、意欲あるすべての農家を対象に価格保障と直接支払いを組み合わせた対策を実現すること」を求める意見書を採択しました。

 北海道十勝地方は大規模畑作地帯で、九割近くの農家が「品目横断対策」の対象になります。それにもかかわらず、こうした意見書があがる背景には、「品目横断対策」が実施されたとしても価格保障が廃止されたら経営を維持できないことと、この対策が過疎を加速させ農村地域社会の崩壊を招きかねないということがあるからです。

 「品目横断対策」は、農家の生産意欲を引き出しません。結果として食料自給率の向上にもつながりません。私は、この二つのものさしで農政を検証すべきだと思います。

地域農業守る視点で

 富山県砺波市・境欣吾さん

 私は、六十四戸で七十六ヘクタールある集落のなかで、七ヘクタールの水稲を栽培するかたわら、集落の転作組合長も務めています。「品目横断対策」に集落としてどう対応するか、私は生産組合長と相談して進める立場です。生産組合長は、農協の営農部長という立場もあって、政府の政策を強引にやってくるんじゃないかと警戒していました。

 ところが、生産組合長自ら、集落の営農を一手に引き受ける組織の立ち上げについて、「いきなりそこに行くべきではない」と言い出したのです。私は、今の農政にどう乗るかではなく、地域の農業をどうやって守っていくかという視点が大事だと思います。こういう視点で、話し合いを進めていきたいと思います。

なりふり構わぬ行政

 京都府南丹市・安田政教さん

 先日、府から集落の農作業受託組合に「経営指導員をつくってくれ」という話が持ち込まれました。戦略ビジョンの作成などが仕事ですが、担い手育成総合支援事業で五十万円弱の補助が出るそうです。しかし私が「難しい内容だ。急な話でもあり、役員とも相談したい」と答えると、「実際の仕事は行政でもやるから、とにかく手をあげてほしい」という話でした。

 京都は「品目横断対策」のとりくみが遅れていて行政はなりふり構わず前に進めようとしています。ところが農村では「集落を守っていこうと思えばヒモつきの金はもらえない」という世論がますます広がっています。

(新聞「農民」2006.5.15付)
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2006年5月

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