憲法「改正」で平和的生存権が…「農林水産九条の会」呼びかけ人元東京教育大学教授 暉峻 衆三さん
プロフィル
私が、九条を中心に日本国憲法を変えようとする動きに強く反対する理由は、二つです。
戦争体験者として強く反対する一つは、戦争の惨禍を体験した世代だからです。私の世代は、いまや残り少なくなりました。小学校に入ると「満州事変」、中学で日中戦争、高校で太平洋戦争、そして原爆投下の広島の惨状と、戦争の体験がついてまわりました。勤労動員、空襲警報、そして兵役に追われ、ろくに勉強もできず、学問や言論の自由もなく、食べものにも事欠く青春時代でした。原爆。それは人間はもちろん、生きとし生ける者すべてを後世まで抹殺しようとする最悪のテロ兵器です。今日、アメリカは核兵器を最重要の戦力にすえ、先制使用をちらつかせながら海外に多数の軍事基地を置き、あちこちで戦争を仕掛けて日本を道連れに自らの望む方向に世界を動かそうとしています。日本はアメリカと安保条約を結んで、軍事的、経済的に協力する義務を負っています。こういった状況のもとで、憲法「改正」が企てられているのです。 いま日本には、アメリカ軍や自衛隊の基地が沖縄をはじめ多数置かれ、軍事行動が展開されています。そのもとで、農林漁民の経営と生活が脅かされる事態も生まれています。しかし、集団的自衛権と戦力を認めず、国民の平和的生存権を認めている現行憲法は、それに一定の制約をかけてきたことも事実です。もし、九条を中心に憲法が「改正」されたら、国民の平和的生存権の一環をなす農林漁民の経営と生活の権利は、有事、国益を名目に大きく制約されていくことになるでしょう。それにとどまらず、国民の言論・集会・結社の自由の制約へと波及していくことでしょう。
農業の研究者の立場からも反対第二は、農業問題の研究者の立場からの反対です。憲法「改正」の企ては、食料を含む資源小国=日本の安全保障と結びついて論じられています。食料や石油を大量に輸入する日本は、海路や空路を確保するための軍事力や集団的自衛権を必要とするという議論です。日本はかつて、朝鮮や中国を植民地支配して食料基地にしました。食料安全保障の必要を強調して、国民を憲法「改正」に誘導しようとしているのです。そもそも日本が、今日のような極度の食料生産小国になったのは、政府が日米安保体制のもとで、自動車、電気機器、鉄鋼など大(多国籍)企業を基軸に、経済成長と貿易自由化を推進し、国内での農業生産の保持を軽んじてきたところに根本的な原因があります。いま、食料自給率の反転、向上が強い国民の要求となっています。その方向を追求しながら、東アジアでの平和的共存と結びつけた共同体の構築を追求することによって、輸入食料確保と結びついた九条「改正」の企てを打ち破っていく必要があると思います。
(新聞「農民」2006.5.1付)
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[2006年5月]
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