「農民」記事データベース20060424-729-09

教育基本法を語る〈下〉

教育家 三 上  満さん


教育基本法の値打ち見直す時

憲法にとって最大の心の支え

 やる気のない子つくる選別教育

 日本の子どもたちは、国際的な比較で、際立った特徴を持っています。一つは、幸せ感が薄いということです。それに比べてたとえば、中国の子どもは、一人っ子政策もあるが、幸せ感いっぱいなんです。

 それから幸せ感と表裏の関係なのですが、日本の子どもは、「自分がいい子なんだ」という自己肯定感が薄いのです。自分に自信がもてない、自分が自分を好きになれない。これは、競争と選別の今の教育そのものなのです。途中までやったけれど、できなくなると、「ぼく(私)ってだめなんだ」となる。学力低下が言われていますが、全体の学力が下がっているわけではないのです。学力が下位の子どもたちは、ほとんどが無回答、つまりやる気のない子どもが増え、平均点を引き下げています。

 そういう財界の言う「落ちこぼれた人間」が非行に走るのかというと、必ずしもそうではなくて、上位の子どもたちは、上位を維持するために、精神的なストレスなどで、非行に走ることもあるのです。子どもにとって、非常に生きづらい社会になっている。教師がちゃんと教えなかったという問題とは、まったく次元が違うのです。

 学力調査でも、算数や理科の勉強が好きかどうかというアンケートになると、日本の子どもは最低になってしまいます。たとえばインドネシアやフィリピンの子どもは、あまり学力は高くないのだけど、勉強が大好きという回答が多いんです。それだけ、「勉強が役に立ち、楽しい。わかるっていいな。ぼく(私)利口になった」という実感があるのです。日本の子どもは、「ぼく(私)何番か、何点か」と言う。「九十点とった、やった」ではなくて、「九十点とったけど、百点が大勢いた。だめだ」となってしまう。そこに子どもを追い詰めている一番の問題があるのです。

 子どもを大事にしない日本社会

 こうした状況を作り出してきたのは、一九六〇年代から系統的に教育に口をはさんできた財界です。財界は、少しも「すべての子が賢くなってほしい」なんて望んでいません。一部の人、百人に一人だけが賢ければいいと露骨に言っています。その百人に一人が日本を引っ張って、あとは実直な精神を養ってくれればいいと。

 もっと極端なことを言えば、人間は三つのグループに分けられる。創造的なことができる人間のグループと、創造はしないが能力を発揮できるグループ。そしてその下に、完全に人の言いなりにしかなれないようなグループ。こんなふうに生まれながらに決まっているんだと。これが彼らの人間観です。財界にとって非常に都合がいい。子どもがこれほど大事にされていない社会も珍しいのではないでしょうか。

 だから改めて、どの子どもにも値打ちがあるという教育基本法の理念を見つめ直すときです。まさに宮沢賢治の精神そのものです。それを守るだけでなく、生かして反転攻勢をかけるときです。

 急速に世論高める大規模な運動

 与党が四月十二日、「愛国心」をめぐる表現について合意し、改悪に向けて大きく動き出しました。これほど大事な法案を、国民的な議論もなく足げにし、戦後生み出した価値を踏みにじることに、怒り心頭です。改悪法案の国会提出を絶対に許してはなりません。

 運動の展望としては、憲法を守る前段の運動と位置づけていく必要があります。教育基本法を改悪するという連中も一枚岩ではありません。与党の中でも、公明党に配慮した「愛国心」の表現に自民党内から異論が続出しています。民主党の中には、改悪反対の日教組出身議員もいます。国民の世論が最終的に決めることになる。会期末に向けて連日、国会に押しかけるという規模の運動を作る必要があります。

 政府がPSEマークのない中古家電の販売を禁止する方針を事実上撤回したように、急速に世論が高まることを、改悪論者は恐れています。

 教育基本法の条文を読むと、熱く、情熱があるのです。これを書いたのは、戦前、不本意にも黙らされ、抑えつけられてきた人たちなのです。教育基本法のなかには、「勤労と責任を重んじ、自主的精神に充ちた」とあります。まさに農の心です。子どもに農業の体験させることも必要です。そういう点では、農民連は希望の星ですよ。

(おわり)

(新聞「農民」2006.4.24付)
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2006年4月

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