「農民」記事データベース20060424-729-08

  異常気象と食糧生産 》15《
―農業のはなし―

お茶の水女子大学名誉教授 内嶋 善兵衛


大雪との様々なたたかい

 降る雪は軽くても積もると重い

 天からの手紙とも呼ばれる雪は、軽い物の代表のように風に舞って降ってきます。降った直後の雪は、一立方センチメートルが〇・〇三グラム(北海道)から〇・一グラム(本州)の間で、確かに吹けば飛ぶほどの軽さです。でも、積雪が五〇〜一〇〇センチメートルとなると下の方は、雪の結晶がつぶされ、また一部融けたりして密になって重くなります。測定によると、一平方メートル当たりの積雪重圧は、積雪深五〇センチメートルで百五十キログラム、一〇〇センチメートルで三百五十キログラム、一五〇センチメートルで五百七十キログラム、二〇〇センチメートルでは八百二十五キログラムに達します。多雪地で家がつぶれるのは、この雪の重さのためです。天から降る雪は軽くても積雪は重いのです。

 “積雪のふとん荷重”が枝に…

雪にうまった枝への積雪層の荷重 積雪にうずもれた果 樹園では、春先に積雪層が沈下するとき立派な枝が付け根から割けたり、折れたりして、農家の人をがっかりさせます。枝の面 積は大したことはなく、枝上の積雪の重圧は少ないのに、なぜ枝に過大な重圧がかかるのでしょうか。これは積雪の間に付着力が作用して、枝から離れた場所の積雪の重圧も一部枝に作用するからです。この様子をモデル化すると図のようになります。

 中央にある枝には、周辺の積雪層の重圧を積算した重圧がかかるのです。この積雪重圧は「積雪のふとん荷重」と呼ばれています。いま、積雪層の平均密度を一立方メートル当たり〇・三三トン、積雪層の厚さを二メートル、一メートルの高さに果樹の枝があるとすると、この枝にかかる積雪層のふとん荷重は、一メートル当たり一・三二トンというかなりの大きさになります。ふとん荷重を減らして枝を守るには、積雪層に深さ方向に切れ目を入れて、枝に作用する積雪層を細切れにする方法が有効です。

 気温上昇遅れや雪崩などに注意

 野山に積んだ雪は、そのまぶしさから分かるように太陽光を強く反射します。太陽光の反射率は降った直後の新雪で約〇・九、時間がたった雪で〇・七程度、融雪時でも〇・六以上になるようです。このため積雪があると、地域気象の熱源である太陽光が無駄に失われるので、気温の上昇がわずかになります。

 とくに融雪時には、太陽エネルギーの多くが雪を融かし蒸発させるのに使われるので、温度上昇が遅れてきます。温度上昇を促進し、草地や苗代の準備を早めるため、雪面黒化剤を散布します。これは白い雪面を黒色に変えて、太陽光の吸収を助けるためです。しかし、あまり多く散布すると黒化剤の環境汚染が問題になってきます。

 このほか、今冬のような多雪年には、中山間地域では雪崩(なだれ)や積雪層の滑りによる被害が心配です。調査によると、雪崩の発生は山腹の傾斜角が三一〜五五度の域でもっとも多く、二四度以下で発生せず、五五度以上になると急減するようです。中山間地域には危険な雪崩や積雪層の滑りに適した場所が、農家の近くにも林地にも多く見られるので注意が必要です。

(つづく)

(新聞「農民」2006.4.24付)
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2006年4月

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