「農民」記事データベース20060417-728-09

  異常気象と食糧生産 》14《
―農業のはなし―

お茶の水女子大学名誉教授 内嶋 善兵衛


一八豪雪も異常気象から

 過去の記録を塗りかえた大雪

 四十三年前の一九六三年(昭和三十八年)一月に北陸、山陰を中心にして日本海沿岸に大雪が降り、死者は二百三十一人に達し、交通は寸断され日常生活が混乱しました。気象庁は、これを「昭和三十八年一月豪雪」と命名し、その原因の研究を始めました。これ以降、豪雪という名称が一般化したようです。気象事典には、警報の出るような大雪が豪雪であるとあり、厳密な定義はないようです。昨年十二月から始まった大雪は、過去の積雪記録を多くの地点で塗りかえ、民生、農林業に大きな被害を与えました。そこで気象庁は今冬の大雪を「平成十八年豪雪」と命名しました。

 日本に豪雪もたらす三点セット

 北緯三五〜四二度近くまでの日本列島の日本海側は、世界でもまれな多雪地帯です。積雪深は二〜三メートルに達し、根雪期間が百日以上になる地区も珍しくありません。気候温暖化の進みで大雪の被害が少し減ったと思った矢先の豪雪。これは異常気象というほかはありません。

 では、なぜ日本海側は世界的な多雪地域なのでしょうか? それには冬の北西季節風、北上する対馬暖流、そして本州中央を南北に走る二千メートル級の山々という三つの組み合わせをあげなければなりません。その様子が図に示されています。厳寒のシベリア奥地から吹き出す風は冷たく乾いており、暖かい日本海を渡る間に海面から暖められ、またたくさんの水蒸気をもらってモクモクとした雲列を作って日本列島へ上陸します。上陸した空気塊は山脈を乗り越える時、強制的に高いところへと上昇し上空の冷気で冷やされます。この時、雲粒は結晶して雪になり降ってくるのです。

図 日本海側にもたらす仕組み それゆえ、雪の多少は(1)北西季節風の強さと持続期間、(2)日本海の水温の高低に密接に関係しています。今冬は暖冬といわれていましたが、実際は強い風を伴った厳冬・多雪という異常な冬で、人々の生活を乱し、山野の自然に大きな痛手を与えました。その原因として地球規模の大気の流れの乱れが指摘されています。一つはペルー沖の東太平洋地域での弱いラニーニャ現象の発生、それによる東南アジア域での海水温上昇、対流活動の活発化。もう一つは、北極圏寒気団の異常な南下です。しかも、シベリア奥地からの北西季節風の強さを決める奥地と千島列島域との気圧差が平年の一・六倍にもなり、強い季節風がたくさんの雪雲を伴って、日本海を次々と吹き渡ってきたのです。

 異常気象から農村守るのは大変

 「三八豪雪」時と違って、現在の農村、特に中山間地域では過疎・高齢化が相当に進んでいます。また、「構造改革」のために生活、生産基盤の整備、補修も遅れ気味です。しかも豪雪のような広域の異常気象から農村を守ることは大変なことです。すべて技術的な努力で対応することはコスト的に不可能です。それゆえ、国全体での安全ネット(農業共済など)が必要です。
(つづく)

(新聞「農民」2006.4.17付)
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2006年4月

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