「農民」記事データベース20060417-728-01

教育基本法を語る〈上〉

教育家 三 上  満さん

 政府・与党が教育基本法「改正」案の国会提出をもくろむなど、情勢が緊迫しています。教育家で「子どもの権利・教育・文化全国センター」代表委員の三上満さんに、教育基本法の精神と、子どもをとりまく状況について聞きました。


教育基本法の値打ち見直す時

憲法にとって最大の心の支え

 どの子もだめな子はいない

 教育基本法の一番の真髄は、子どもも含めて人間が大事にされなければならないということです。どんな子でも値打ちを持っている。その値打ちを最大限に伸ばす教育でなければならない。人間の価値を超えるものはないということです。

 戦前、人の命は鳥の羽よりも軽く、大事なのは天皇であり、国家だとされた。戦後、それを逆転して、人の命、人間の価値より尊いものはないとされた。「どの子もだめな子はいない」という宮沢賢治的な立場がすえられたのです。

 誠実に働いて大地を耕す農民たち。戦前、とくに貧しい農村から、日本が生命線として押さえた満州へ、半強制的に移民として駆り出されました。農村からは人間だけではなく、馬や米などの農産物も徴発された。戦争の被害を一番受け、悲惨さが身にしみているのは農民なのです。戦争推進者にしてみれば、農民を無知にしておけば、戦争、支配のために使いやすかったわけです。農民が戦争で受けたときの苦しみを思い起こしながら、教育基本法の値打ちを見直してほしいと思いますね。

 教基法変えるねらいは3つ

 なぜ教育基本法を変えようとしているのか。ねらいは三つあります。

 一つは教育基本法と憲法の一体性にあります。日本国憲法は一九四六年十一月三日に公布され、四七年五月三日に施行されました。その間の国民的な準備で一番大事だったのは、人の心でした。人の心が新しい時代を築こうとなっていなければならない。そのために、その中間の四七年三月三十一日が教育基本法の施行日になったのです。

 憲法の理想を実現するために、平和と民主主義、個人の価値を尊ぶ教育を行うとする教育基本法は、まさに憲法にとって最大の心の支えです。憲法の理想を変え、お国のために尽くす国民をつくることを最大の柱にしている勢力からすると、憲法を変えたけど、教育基本法は残ったというわけにはいかないのです。

 弁護士資格を代貸ししてもうけようとした、民主党の西村真悟衆院議員が教育基本法改悪の最先兵でした。「お国のために命を投げ出す国民をつくる」と言い切っています。最近は、安倍晋三官房長官(自民党)が「ホリエモンのような、利潤万能、もうけ主義、拝金主義者がでるのは教育基本法が悪いからだ」と主張しています。「個人の価値をたっとび」という文言に目をつけ、個人個人とあまり言うから、個人の利益ばかり求めて、国・公の利益を忘れている、その結果がホリエモンだというのです。しかし「個人の価値をたっとび」というのは、人間の命ぐらい尊いものはないということを新しい教育だけでなく、国づくりの基本にすえようということです。命を育て、命を相手にする農民にこそふさわしい理念ですね。

 農村に勝ち組負け組なんて

 もう一つのねらいは、小泉「構造改革」のなかで、いろいろな規制を取り払って、弱肉強食の社会に変え、世の中に生きている人たちの安全弁を破壊してしまおうということです。保育所の事業に株式会社を参入させたり、盲・ろう・養護学校を「特別支援学校」として統廃合するなど、規制緩和とリストラで、法改悪の中身を先取りするようなことをやっています。

 東北で講演したとき、懇談のなかで、「農村のなかでも、勝ち組、負け組という言葉がはやり始めている」という話がでました。農村に勝ち組、負け組なんて言葉があっていいのでしょうか。勝ち組、負け組なんていう言葉に一番なじまない社会のはずではないでしょうか。そういった基準で測るのでなく、自分が作る農産物にどう味わいを出すのかということに力を注ぐべきでしょう。

 教育基本法を変えて、勝ち組、負け組に分かれる社会に合うような子どもたちを作ろうとする。だから法のなかにある「すべての国民は、ひとしく、その能力に応ずる教育を受ける機会を与えられなければならない」という文言の「すべて」と「ひとしく」を取ってしまうのです。財界は「九年間の義務教育はいらない。六年でいい」と言い始めています。「六年たって、競争に勝ち残れないような人は、何年たってもだめだ」ということです。

 三つめのねらいは、そういう教育にするために、国が徹底して統制できるようにすること。たとえば「つくる会」の教科書の採択のように、現場の教師から決定権を取り上げ、教育行政を国が丸ごと押さえつける。単に、戦争をできる国への人づくりというだけでなく、実に寒々とした荒々しい競争社会に順応できる人づくりをねらっています。

(つづく)


 三上満(みかみ・みつる) 1932年東京生まれ。教育家。東葛看護専門学校前校長。「子どもの権利・教育・文化全国センター」代表委員。『野の教育者・宮沢賢治』『明日への銀河鉄道――わが心の宮沢賢治』など著書多数

(新聞「農民」2006.4.17付)
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2006年4月

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