異常気象と食糧生産
》13《
―農業のはなし―
お茶の水女子大学名誉教授 内嶋 善兵衛
史上最大の凶作は干ばつ
今世紀末に昇温内陸部は乾燥化
凶作というと日本ではすぐ冷害を思い起こします。たしかに十七世紀初めの寛永・元禄の凶作から十九世紀半ばの天明・天保の大凶作まで、冷夏による大凶作は人々と徳川幕府に大きな打撃を与えました。これは世界的な低温期―小氷期(十六〜十九世紀)の事件でした。
しかし、十一世紀から十二世紀にかけては西日本域で干ばつが頻発し、統治していた平家の力が弱まり、東国を主とする源氏に負けたという俗説があります。この時期の西欧はバイキング時代といわれる温暖期です。歴史上最大の干ばつと大飢饉はお隣の中国で起きました。「中国救荒史」によると、華北から四川省にかけて一八一一年を中心に、三年間も雨が降らず、草木は枯れ果て、約二千万人が餓死したようです。「白髪三千丈」のお国柄ですから、そのまま鵜呑(うの)みにはできませんが、日照り、干ばつの被害は日本の冷害の比ではありません。
最新の地球シミュレーターは、今世紀末の気候が現在より三〜四度昇温し、大陸内部に、夏半年が乾燥化する地域が多くなると予想しています。世界の大食料基地は中緯度帯の大陸内にあるので、地球温暖化は、主な食料の約三分の二を輸入している日本人にとって不気味なことです。
水分の補給への作物の感受性
作物の根が張っている耕土は、肥料分と水分のプールです。水は天からの降水と灌漑(かんがい)によって補給されます。水の補給度合によって、作物の光合成活動―乾物生産(収量
)は大きく変化します。水分補給への作物の感受性は、生育段階で変化します。感受性のもっとも高い生育期は表のようにまとめられます。これらの感受性の高い生育期に水分補給をよく行うと、作物の生育は良好で高い収量
がえられます。
土の乾きは収量の重要な要素
水不足になると、作物は葉の気孔(きこう)を閉じます。このため光合成活動は停止します。また葉温が上昇して呼吸が盛んになり、せっかく作った光合成産物が失われます。このような結果
として収量は低下します。土壌水分を四段階にして栽培したトウモロコシの全乾物収量
と種実収量の変化が図に示されています。最大水分量の八〇%以下になると収量
は急減し、三〇%では種実収量は一ヘクタール当たり一トンに減ってしまいます。このように土の乾きは作物収量
の重要な決定要素です。
(つづく)
(新聞「農民」2006.4.10付)
|