異常気象と食糧生産
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―農業のはなし―
お茶の水女子大学名誉教授 内嶋 善兵衛
天からのもらい水に頼る
農地での水のやりとりをみると
水田を例にして、農地の水のやりとり(収支)を表すと図1のようになります。よく茂った水田では、一日に五〜六ミリメートルの水が葉面
からの蒸散と水面からの蒸発によって失われます。また、耕土層や水尻から水が失われています。これを補うのは水口からの灌(かん)水と雨。灌水も元を正せば上流に降った雨ですから、農地の作物の生長と収量
は天からのもらい水に頼っていることになります。
年間降水量が約一六〇〇ミリメートルという多雨な日本にいると、作物の生長に必要な水は十分確保されているように思えます。でも、日照りが続くと沢水は枯れ、貯水池の水位も下がり、畑の作物は立ち枯れ寸前になることもまれではありません。
雨がもっとも変動が大きくて
作物は根を地中にめぐらせて水分と一緒に養分を吸収しています。活発な根の張っている深さは約五十センチメートルです。この中に蓄えうる水は約五〇〜七〇ミリメートルですから、雨後十日間も晴天が続くと地中の貯えは底をつき、作物はピンチになります。ですから、一週間おきに四〇〜五〇ミリメートルの雨が降るのが、作物にとって最適です。しかし、そう都合よくいきません。
気象要素のなかで雨はもっとも変動が大きく、多雨・豪雨あり、干天・日照りありです。第三回で引用した都城市での年雨量
の年次変化が図2に示されています。このように平均値の上下に大きく変動していて、変動係数(=標準偏差÷平均値×一〇〇)は一八・七%と、同市での気温の変動係数(三・一%)の六倍の大きさです。世界的な多雨国―日本でこの大きさですから、雨の少ない世界の畑作地帯では五〇%にも達します。しかも、気候の温暖化につれ、降雨の変動はさらに大きくなり、豪雨と干天が頻発すると予想されています。
畑作地では雨のあるなしは死活問題で、日照りや干天の都度、世界の穀類相場は高騰して、庶民の台所を直撃します。
(つづく)
(新聞「農民」2006.4.3付)
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