日本政府が「MA縮小・撤廃」放棄農民・国民への重大な裏切り
WTO農業交渉のなかで、輸入農産物の関税をどこまで下げるか、低関税の輸入枠(ミニマム・アクセス=MA)をどの程度広げるか、といった「市場アクセス」の分野は、各国・グループの意見が最も対立している問題です。とりわけ日本にとっての米など「重要品目」の扱いはとくに重要。しかしアメリカなどは、「重要品目」といえども大幅な関税削減と輸入枠の拡大を要求しています。 こうしたなかで、MAの縮小・撤廃を求める方針をあっさり放棄した日本政府の弱腰な交渉姿勢は農民、国民に対する重大な裏切りです。
譲るべきものは譲る日本政府日本政府は、二〇〇〇年のWTO農業交渉に向けた提案で、「一定量のアクセス機会の提供を義務付けるシステムは、輸出入国間の権利義務バランスの面で均衡を欠く」と述べて、MAの縮小・撤廃を求める方針を明確にしていました。ところが昨年十月、「同調する国がほとんどない」(農水省)という理由でこの方針を撤回。MAを最大三〇%増やす、低関税輸入枠の拡大率と関税の引き下げ率をセットにした「重要品目」についての提案をしました。(十月十日の少数国閣僚会議に提出されたG10提案)さらに、「譲るべきものは譲る」(中川農相)とのぞんだ昨年十二月の香港閣僚会議では、三〇%という上限も撤回。MA拡大幅も関税削減率もいっさい今後の交渉にゆだねる譲歩提案を示しました。 これは、みすみす相手の土俵に足を踏み入れ、ずるずると泥沼の譲歩の道を進む、おろかな戦術にほかなりません。 実際に二月十三日から十七日にかけてジュネーブで開かれたWTO農業交渉では、アメリカが「重要品目」の関税削減や低関税輸入枠の拡大についての方法を提案。これにもとづけば、日本のMA米の輸入量は、現在の年間七十六万七千トンから一気に約五百万トンに増えることになります。この提案自体はまったく乱暴なものですが、世界最大の食糧輸入国である日本がMA縮小・撤廃の足場を投げ捨てて、どうしてMAの大幅拡大を求める輸出大国と渡り合えるというのでしょうか!
MA米保管料は就農支援の25倍WTO協定が動き出した一九九五年以降の十年間で、日本は七百万トン以上のMA米を輸入しました。その間、米価は三割以上下がり、減反面積は六割も拡大しています。「WTOのもとでは農業は続けられない」という声が農村に満ちあふれ、MA米の削減・撤廃は、稲作農家の最も切実な要求になっています。また、MA米の在庫は現在百七十万トンも積みあがり、年間百七十億円の保管料が費やされています。これは、青年就農促進支援予算(六・七億円)の二十五倍! 農水省は一月、財政負担を減らすため、二十万トンのMA米を飼料用として一俵(60キロ)千円でたたき売りすることを決めましたが、予算のムダ遣いという点でも、飢餓国の食糧を奪い家畜のエサにするという点でも、要らない外米の輸入は最悪の政策です。
追い込まれているWTO推進派現在進められているWTO交渉は、四月末にモダリティ(自由化の大枠)を決め、今年末の決着をめざしていますが、これは少数の輸出大国と多国籍企業の思惑にすぎず、誰もスケジュール通りに進むとは思っていないといっても過言ではありません。追い込まれているのはむしろWTO推進派であり、WTOに代わるルールとして「食糧主権」の確立を求める世論が世界で急速に広がっています。このことを確信にして、日本政府をMA縮小・撤廃の立場に立ち戻らせることが重要です。
(新聞「農民」2006.3.13付)
|
[2006年3月]
農民運動全国連合会(略称:農民連)
本サイト掲載の記事、写真等の無断転載を禁じます。
〒173-0025
東京都板橋区熊野町47-11
社医研センター2階
TEL (03)5966-22249
Copyright(c)1998-2006, 農民運動全国連合会