「農民」記事データベース20060313-723-01

自分たちの田んぼは自分たちで守る

鳥羽上北町営農組合
(滋賀・長浜市)

 小泉内閣が推し進める農業「構造改革」。その目玉が、品目横断的経営安定対策で、いまの国会に関連法案を提出してきました。この新たな対策をめぐり、どう地域農業を守っていくのか、農村が揺れています。そんななか、滋賀県長浜市にある鳥羽上北町地域では、一部の大規模農家が「担い手」になるのではなく、多様な農家が共同の力で地域農業を守ろうとしています。その中心になっているのは、営農組合です。


営農組合が中心になって
集落みんなで条件に合わせ
できることから始めた

 組合にまかせる直営田方式やめ

 滋賀県長浜市の東部にある鳥羽上北町地域。「農地と農業経営を守り人と自然にやさしいまちづくりを」とスローガンに掲げる鳥羽上北町営農組合(浅尾文彦組合長)があります。この営農組合では、継続的な運営や担い手の育成など地域農業がかかえる問題に少しでも関心を持ってもらうため、「自分の田んぼは営農組合にまかせて安心」という営農組合の直営田方式から、昨年から「自分の田んぼは自分で管理」する方式に変更。この結果、三十代、四十代といった若い人たちが「自分の農地は自分で守ろう」という自覚を高め、営農組合の作業にも出てくれるようになりました。

 預かった農地を地権者に返して

 営農組合は、国や県の補助金で機械や格納庫を整備して一九九二年に設立されました。しかし、年々農地を営農組合にまかせる直営田が増加し、農家の高齢化や米価の低迷で、大型機械の更新が困難になることや役員に過重な負担がかかるなど、営農組合の経営は危機的状況に。受託作業の人件費を百円切り下げるなど経営努力をしてきましたが、根本的な解決にはいたりませんでした。「そこで昨年から、営農組合の直営田方式をやめて、預かっていた農地を地権者に返し、作業だけ請け負うことにしました。地権者には、春や秋の農繁期に一日でも田んぼに出てもらい、普段も水管理や畔(あぜ)の草刈りなど自分の田んぼは自分で管理してもらうようにしました。そうしたら若い人も田んぼに出てくれ、営農組合の運営にも参加するようになり、機械などの操作もまかせられるようになってきました」と話すのは、副会長の清水又蔵さん(65)。

 昨年の耕作(耕起・代かき・田植え・稲刈り)を営農組合に委託した農家は、五十八人で合計約七・三ヘクタール。多い人でも三十アール程度で、全部まかせる人もいれば、田植えだけという人もいます。作業料金は、十アールあたり耕起で八千円、代かき・田植えで一万一千円、稲刈りで二万一千円です。一方、受託した営農組合で作業に従事した農家は、三十五人。一時間当たり千四百円の手当です。多い人で百八十八時間余り、少ない人で二〜三時間という人もいます。それぞれの条件に合わせて、請負作業に参加しているようすがわかります。最近、二百万円のトラクターと五百万円のコンバインを入れました。乾燥機などは、「もう使わないから」という農家から分けてもらった中古品です。

政府の集落営農政策に
だれも期待していない

 農協に頼れば低米価、減反に泣く

 なぜ、営農組合で預かっていた農地を地権者に返すことにしたのか? その理由は、一つには米価の低迷です。役員の大橋徳蔵さん(69)は、「農協に出す米価は一俵(60キロ)一万三千円。乾燥費などの経費を差し引けば、一万一千円台。ところが、ここの米は“おいしい”と評判で、縁故米を中心に独自の販路で一万七千円で売れますよ」と、話します。

 もう一つは減反です。農協に出荷すれば減反せざるを得ません。農民連滋賀県連の会長で鳥羽上北町農業組合の組合長でもある北村富生さん(69)は、農協への集荷が五〇%を切っているなか、「昨年の総会で『集落での減反達成には責任を負いかねます。減反は個々の農家で判断します』と決議して市に提出しました。その結果、ほとんど減反しませんでした」と、話します。行政の進める集落営農に参加して農協に米を出荷すれば、低米価でしかも減反の押し付けに泣かざるをえず、行政の進める集落営農には誰も期待していないのが実情です。

若い人たちも田んぼに出てくる

 この取り組みが全国に広がれば

 滋賀県は、近畿農政局長が「滋賀県で成功しなければ全国で成功しない」と言うほど、富山県に次いで集落営農が多い地域です。現場では、行政やJAが入って、集落営農づくりのための話し合いが進められていますが、八百三十三ある集落営農のうち経営安定対策の面積要件(二十ヘクタール以上)をクリアするのは二百程度。しかも滋賀の場合、そのほとんどがトラクターなど機械の共同利用組合で「法人化は無理」というところがほとんどです。

 北村さんは、こう言います。「一部の『担い手』と言われる人だけが農作業をするのではなくて、集落みんなでできることから始まったわけです。これは農水省の政策とはまったく逆方向ですが、これが集落の農業を守る姿だと確信しています。総会では、『農水省の経営安定対策にはのらない。自分たちの集落は自分たちで守る』ことも決議しました」

 こうした営農組合の取り組みが全国各地へ広がるなら、小泉内閣の農業「構造改革」のねらいをはねかえす力になることは間違いありません。

(新聞「農民」2006.3.13付)
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2006年3月

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