「農民」記事データベース20060306-722-18

野生動物たちが元気でないと
人間や家畜も健康に生きられない


 里山の自然と動物たちを
 描きつづける絵本作家

    いわむら かずおさんさん

〈プロフィル〉 いわむら かずお(岩村和朗) 1939年、東京生まれ。絵本・自然・子どもをテーマに活動。『ゆうひの丘のなかま』シリーズは、美術館のある「えほんの丘」を舞台にした、そこに暮らす生きものたちの物語。『14ひきのあさごはん』で絵本にっぽん賞、『14ひきのやまいも』などで小学館絵画賞、『ひとりぼっちのさいしゅうれっしゃ』(偕成社)でサンケイ児童出版文化賞、『かんがえるカエルくん』(福音館書店)で講談社出版文化賞絵本賞を受賞。ほかに『トガリ山のぼうけん』シリーズ(理論社)など著書多数。
 いわむらかずお絵本の丘美術館
 TEL0287(92)5514


 美しい里山の四季。そこで暮らす野ネズミやリス、キツネ、タヌキなどの家族が展開する「地域社会」の物語。動物たちの活躍が明るく、楽しく描かれていく絵本――柔らかな色彩が読む人の心に優しく響きます。自然を愛し、子どもたちの健やかな成長を願う絵本が国内だけでなく、フランスやドイツ、台湾などでもロングセラーになっています。それらの絵本の紹介や原画を展示している「絵本の丘美術館」でお話をうかがいました。


 中学生の頃から絵が好きだった

 高校生の時、「将来、自分は表現する仕事につきたい」、それも「朝きちっと出勤するような仕事でないほうがいいな」と思ったんです。

 絵が好きだったし、中学も高校も絵の時間が楽しくて、自分が解放される時間だったものですから、絵にかかわる仕事がいいなと。それで先生に相談して美術学校を受けることにしました。

 当時、グラフィックデザインが花形の職業になり始めた時期で、デザイン科をめざしました。ちょっと浪人して入ったのが東京芸術大学の工芸科で、グラフィックデザインや工業デザイン、クラフトなどが全部一緒になっていました。それが絵の道への入り口ですね。

 子ども向けの絵本作家をめざす

 大学の時に学費稼ぎと興味があったのと両方なんですが、NHKテレビの幼児番組で絵を描く仕事をしました。うたのお姉さんが歌をうたって、そのバックに絵が出てくる番組ですが、これが子ども向けの絵をかく仕事のきっかけですね。

 ちょうど、その幼児番組の仕事をやり始めた頃に、欧米のすぐれた絵本が次つぎと日本に入ってきました。そのイラストレーションの新鮮さと、これまで考えてきた絵本とは全然違う表現に触れて「絵本作家になりたい」と思い始めたんです。二十代の終わり頃ですね。

 自然の中で暮らしながら仕事を

 初期のころは、童話作家などの文章に絵を描くという絵本が多かったんですが、最初のオリジナル作品を書いてから間もなく、栃木県益子町の雑木林の中に家を建て、家族と移り住みました。そして『14ひき』シリーズが生まれ、私の代表作にもなっていくんですが、絵本の舞台になっている自然の中で暮らしながら描きたいという思いがあったわけです。

 益子町に移り住んでから八年ほどたってシリーズがスタートしました。里山の自然とそこで暮らす生き物たちをよく観察しながら絵本を作っていくという創作のスタイルができてきました。

 雑木林に住む動物たちが主人公

 『14ひき』シリーズというのは、雑木林に住んでいる野ネズミが主人公ですけど、うんと擬人化されていて、実際の野ネズミの暮らしとあまり関係ないんです。(笑い)

 ここ八溝(やみぞ)山地の里山にはキツネ、タヌキ、リス、モグラ、イタチ、ノネズミ、テン、アナグマ、ハクビシン、イノシシなどが生息していて、これらの動物たちと時々出合っています。『ゆうひの丘のなかま』シリーズは、この里山の地域社会の物語として書いています。人と野生動物、家畜たちで構成されるコミュニティーと考えているのです。

 「野生動物が元気でないと、人間や家畜も健康に生きられない」――その思いを込めてシリーズを書いています。

 昨年、私たちも「九条の会・益子」を設立しました。バッジを作り、一個三百円でカンパを集め活動資金にしています。白い鳩(ハト)が「九」のポーズをとっている絵は私のデザインです。

 絵本の世界と自然体験つなげば

 益子町の雑木林の中に住んで三十年になりますが、以前は夏になるとクワガタなどを取りにくる子どもたちの声が聞こえていたのに、十五年ほど前から子どもたちの姿が見えなくなりました。ゲームなど室内で遊ぶ子が多くなったのでしょう。

 自然からたくさんのものをもらって描いている絵本作家としては「子どもたちに自然体験をたくさん持ってほしい」と思います。自分にできることは大した力にならないと思うけれど、とにかく絵本の世界と自然体験をつなげることができないかと考え始めたのです。

 最初は益子町に条件のいい場所を探しましたが見つかりません。その時に馬頭町(現・那珂川町)の人たちが「ここが一番いい場所だ」と熱心に勧めてくれたのが、見晴らしのよい丘でした。そして一九九八年四月に「いわむらかずお絵本の丘美術館」をオープンすることができました。

 農業イベントを子どもたちと…

 美術館ができてから毎月二回、「朗読とおはなし会」をやっています。里山で暮らす動物たちの話と絵本の朗読です。子どもたちは目を輝かせて話を聞いています。

 地元の栃木の子どもたちだけでなく茨城、埼玉、千葉、福島など近隣の県から親子連れで参加する人が多いですね。連休や夏休みには東京はもちろん、広島、熊本など遠くからも来館者があります。交通が不便なのに、一度来てくれた方が宣伝してくれるんでしょうか。

 農業イベントは、冬に「落ち葉さらい」、春に「種まき」「田植え」、夏に「草取り」「ホタル観察」、秋に「稲刈り」や「畑の収穫」の後、「たくあん漬け」や「餅つき」などがあります。それぞれ農家に指導していただき、農作業の終わりには農場の庭で火をたいて採りたてのカボチャやトウモロコシなどを食べます。これがまた楽しいんですよ。

(聞き手)角張英吉
(写 真)関 次男

(新聞「農民」2006.3.6付)
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2006年3月

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