異常気象と食糧生産
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―農業のはなし―
お茶の水女子大学名誉教授 内嶋 善兵衛
稲成長に重要な水田の温度
水温を決めるのは気温、水量…
水稲は移植から収穫まで水を張った水田で成長します。それゆえ、水田の温度は稲作にとって重要な環境要因です。浅い水田の温度を決めるのは、気温、日射、風速などの気象要素と漏水量
、灌(かん)水量、用水温などです。
これらの要素の作用が図1に示されています。気温が高く日射の多いほど水温は高くなり、気温が低く日射の少なく、風が強いほど、水温は低くなります。また、漏水が多くて温まった水が地中へ逃げ、冷たい灌漑(かんがい)水が入ると水温は低くなります。
観測によると、漏水のない水田の日平均水温は、春の田植え期には豊かな日射のために、日平均気温よりセ氏三〜五度高くなります。それゆえ、日平均気温が一〇度に達すると、水温は稲の活着が可能な温度域(一三〜一五度)にあり、田植えが可能です。
深水で地際にある幼穂を保温
古くから冷害の回避、軽減に深水湛水(たんすい)が効果をあげています。ヤマセが吹き始めると夏でも肌寒くなり、稲もちぢこまったように見えます。水稲が穂ばらみ期に入り、低温に弱い時期に突然の低温にあうと、不稔籾(もみ)が発生して大幅に減収します。これが農家の怖れる障害型冷害です。
異常低温が予想されると、気象台は低温注意報を出し、農家に警戒を呼びかけます。多くの農家は水深を深くして地際にある幼穂を保温します。なぜ水で保護すると、幼穂は低温害をまぬ
がれるのでしょうか。水一立方センチメートルを一度温めるには空気一立方センチメートルを暖めるのに要する熱量
の約三千五百倍の熱量が必要です。すなわち、水が冷えにくいので保温効果
が発揮されるのです。気温が二〇度から一五度に突然下がった時、深さの異なる水田の水温の時間変化が図2に示されています。水深二十、三十センチメートルでは五時間後も一八度以上で、保温効果
が発揮されています。
(つづく)
(新聞「農民」2006.2.27付)
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