特産 こんにゃく生かした“まちおこし”
作る農家ふえりゃあ
地域も活気づくょ
農家も高齢化、輸入増加で苦しい時も
傾斜地や山林に囲まれた中山間地域で、特産物を生かしたまちおこしが注目されています。中山間地特有の地形を利用した農業に力を入れている埼玉県西部、秩父地域の小鹿野(おがの)町。学校給食、直売所、産直など多様な販路の開拓で、作る農家を増やし、地域を活性化しようとがんばっています。
こんにゃく栽培に適した地形
東京・池袋から特急列車で一時間半の観光地として名をはせる小鹿野町(人口一万五千人)は、八五%が山林です。昨年十月に小鹿野町と両神村が合併して新「小鹿野町」が発足。かつては養蚕、林業などが重要な産業でしたが、現在は園芸、花きが盛んです。
「秩父は石灰地質で水質もよく、アルカリ質の豊富な土壌と山がちな地形がこんにゃくの栽培に適しています」。こんにゃくの製造・販売などを行う農業法人「株式会社ふるさと両神」の小菅栄市社長はアピールします。
両神地区は、一九七〇年から農家、農協、行政などが一体となり、村おこしの一環として、こんにゃくの製造・販売を始め、九三年には農協の子会社、「秩父こんにゃく株式会社」を設立。ちちぶ農協両神支店の敷地内に工場を構えました。
工場が一定量を買い上げ救った
日本ではいま、原料のこんにゃくいもの九割以上が国産。高い関税が輸入から守っているのです。しかし、低い関税の、加工した製品・半製品の輸入が急増したため、こんにゃく価格は低迷。かつて村の大半の農家がこんにゃくづくりに携わっていたにもかかわらず、輸入などの影響で、いまでは三十戸余り。こんにゃくで生計を立てている農家も七十代、八十代と高齢化の傾向にあります。WTOでこんにゃくいもの関税も下げられれば、外国産がたちまち流入し、こんにゃく農家が大打撃を受けることは必至です。
以前はこんにゃく専業、いまはほかに園芸農業にも携わる新井正夫さん(61)は「輸入が増え、こんにゃくが安値安定になったとき、工場が一定量を買い上げてくれて、危機を救ってくれました。いまは新商品の開発など情報の発信地になっています」と、会社に全幅の信頼を寄せています。
こんにゃくゼリー、こんにゃくそば、いもこんにゃく…。「秩父こんにゃく」は、さまざま種類を開発し、県外にも販路を広げてきました。五年ほど前から、小菅社長が会長を務める埼玉食健連(農林業と食糧・健康を守る埼玉連絡会)が、子どもたちに埼玉産の安全・安心、健康な農産物を食べてもらいたいと、秩父こんにゃくを学校給食に取り入れるよう再三県に働きかけてきました。昨年十月から秩父こんにゃくが学校給食に採用されることになり、県が進める地産地消の取り組みがまた一歩前進しました。
新商品の開発学校給食へ採用農民連との産直
多様に販路を開拓
8年前は会員30人いまや百70人に
「秩父こんにゃく」は一月三十一日、今後も安定した生産を続け、会社を軸にした地域の活性化をめざして、農業法人「株式会社ふるさと両神」として再スタートしました。こんにゃくの製造・販売のほか、新規作物の導入や生産、農業を通した活気あふれるまちづくりをめざします。「日本一のこんにゃく専門店として、地域振興の拠点にしたい」。小菅社長は意気込みます。
小鹿野地区でも地域活性化の取り組みが進んでいます。地元の住民でにぎわう農産物直売所は、特産のあんぽ柿やシイタケなどが所狭しと並んでいます。直売所には、JAが町内数十カ所に設置した小さな集荷場からトラックで集めた農産物がそろっています。
採れたての新鮮な野菜を直売所に届ける園芸農家の茂木勝一郎さん(62)は「朝、納品に行くと消費者の声をじかに聞けるのがいい。『おいしかったよ』と声をかけられると張り合いが出ますね」と顔をほころばせます。八年前は三十人ぐらいだった直売所の会員は今や百七十人に。JAちちぶ小鹿野園芸部会は、たい肥や有機肥料で作られた秩父きゅうり、昼夜の温度差のある栽培条件を生かしたナス、インゲンなど特産品づくりに力を入れています。
農産物の量少ないがファンは多い
小鹿野、両神の両自治体は合併しましたが、JAの両支店はそれぞれ存続することに。「山間地の小鹿野は、多くが零細農家ですが、消費者の信用を大切にしています。農産物が一箱一箱丹念に選果されるなど、きめ細かさが行き届いています。農産物の量は少ないがファンは多いのです」。小鹿野支店の山口宣夫支店長は強調します。
課題は安定的な販路の確保。営農経済係の中田昌生係長は「いつまでも市場出荷に頼るわけにはいかない。直売所をメーンにして、農民連や農事組合法人『埼玉県産直協同』にもお世話になりながら、一年前ほど前から販路の拡大に結びつけてきました」と成果を語ります。
「農家の人に、農協に足を向けてもらうことが農協の役割だと思っています。定年退職者が生活の足しにと、採れた物を少しでも直売所に持ってきてくれれば。やはり生産がメーンです。真剣に取り組めば産地として十分やっていける秩父で、作る人が増えれば、地域の活性化に貢献できます」。山口支店長の力強い言葉です。
(新聞「農民」2006.2.27付)
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