異常気象と食糧生産
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―農業のはなし―
お茶の水女子大学名誉教授 内嶋 善兵衛
冷害対策の工夫で技術向上
天明、天保の大昔から北、東日本は何回となく、夏の異常低温により食料生産はひどい被害を受けてきました。夏の異常低温の農業被害――冷害を和らげるため、多くの人が工夫を重ねてきました。それらは科学的改良を経てすぐれた農業技術として、現在広く用いられています。つぎにそれらについて説明します。
地域ごとに安全作季を決めて
現在、水稲の冷害対策として活用されている農業気象関連の技術をヘリンボーン(ニシンの骨)的に示すと図のようになります。すでに説明したように、農業は地域の環境条件とくに気象条件に適した作物を栽培するとき、高い収量
を安定的に生産し収益をあげることができます。
それゆえ、まず第一に地域の農業気候資源の豊かさと稲の気象要求度をよく調査して、安全作季を地域ごとに明らかにします。そして、最早移植期にあうように健苗を準備します。このために、図に示されている育苗方法に適している品種の健苗を育てます。育苗方法の改良によって、気象的な最早移植期から始まる稲栽培可能期間を早くから利用できるようになりました。このため東日本北部や中山間地でよく発生していた成育遅延型の冷害をかなり軽減することができました。
水温20度以下だと生育に影響
栽培期間を通じてたくさんの水が水田に注がれます。用水の水温がセ氏二〇度以下だと、水口の稲の生育が遅れ稔実(ねんじつ)が悪くなる、いわゆる水口被害が発生します。この被害は、大きな貯水ダム、用水パイプラインの建設や冷害気象時には無視できなくなります。昔から水田の入り口に「ぬるめ」という裸の池を設け、これに冷水を通し温める工夫がありました。温水路、温水池は、これを大規模にしたもので、北海道、東北、北陸地方に多く作られています。この他、水田内の水温の上昇を図る方法および突発的な異常低温から稲を守る保温法などは、つぎに説明します。
(つづく)
(新聞「農民」2006.2.20付)
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