株式会社の新規参入に拍車農地の規制緩和ねらう農地法と農業委員会を事実上解体政府の規制改革・民間開放推進会議(議長・宮内義彦オリックス会長)が昨年末に出した第二次答申は、株式会社の農地所有の解禁など規制緩和案について、「具体的施策」としては盛り込みませんでした。しかし答申の構成は、具体化を迫る「問題意識」が前面にあり、今後さらに検討し、農地法と農業委員会の事実上の解体をねらっているのです。そのことは、答申の書きっぷりや委員らの悪意に満ちた言動からも明らか。こんな輩(やから)に日本農業の未来を左右されるわけにはいきません。
規制改革・民間開放推進会議の答申口をきわめて農地法を非難答申の「具体的施策」は、農地について「意欲と能力のある担い手の育成・確保による農地の効率的利用」というあいまいな表現にとどめました。一方で、「問題意識」の項目では「『耕作者主義』の考え方に基づく農地の権利制限により、株式会社を含めた意欲と能力のある主体による農業への新規参入が制約されて」いると、現在の農地法を口をきわめて非難。「個人や株式会社等の新規参入を促進し、農業生産者間における適正な競争を通じ真の担い手が決定される仕組み」が重要だとうたい、その意図を隠しません。同会議の本音は、これまでの議論や委員の発言からも読み取ることができます。十二月六日の経済財政諮問会議に出席した宮内議長は「既存農家には優遇税制と転用利益という既得権が生まれ、日本の農業は実質的には不動産業と言われるまでになっている」と、「カニは自分の甲羅に似せて穴を掘る」のことわざ通りの良識のかけらもない意見をのべました。 そのうえで同会議への提出資料には、農地の所有・賃借の自由化を「第二の農地改革」と位置づけ、並々ならぬ意欲を示し、(1)株式会社の農地所有の解禁(2)農地リース制度の対象を全農地に拡大(3)農業生産法人の出資制限・役員規制を緩和―を明記しています。
再三農家をべっ視する発言答申はまた、農地のし意的な転用を防止する上で大事な役割を果たしている農業委員会にも矛先を向けています。農業委の委員構成について「地元の農業者が中心であり、自らも転用の申請者になる可能性のある者が他の農業者の申請案件について判断し意見している」と攻撃。同会議委員の南場智子氏(ディー・エヌ・エー社長)が「これが農業者を中心に組成されているものですから、『明日はわが身』ということで、公正・厳正な判断が行われていない」(〇五年七月一日)と述べてきたことが、問題意識に反映されています。同会議は、農水省との公開討論(十一月二十八日)に提出した資料のなかで、昨年九月に全国展開された株式会社への農地のリース制度についても、リースでなく所有を正面から認めよと迫っていました。 同制度を活用し、全国展開した外食産業、ワタミファーム社長の武内智氏によれば「リース制度の全国展開については、何の意味もなく、変わらないと思う。現状では荒れた土地が対象となり、元に戻すのに大きな初期投資が必要で、二、三年は耕作ができない状況である。千葉県白浜の特区に関しては、残念ながら悪い土地であった。遊休農地では、そのまま農業をしようとすると大きな痛手を食らうことになる」(〇五年六月十三日、同氏からのヒアリング)とのこと。これは、経営の失敗を農地のせいにしたうえで、優良農地の取得を要求する下手な説法にほかなりません。 農水省が十二月五日に開いた「食品産業等の農業への直接参入に関するシンポジウム」(写真〈写真はありません〉)に、パネリストとして出席した武内氏は、ここでも同様の不満を口にしたうえで、「農家は普遍的な技術を教えるのが下手」「農家上がりに比べてサラリーマン上がりの方が利益を出せる」などと、農家をべっ視する発言を繰り返しました。
大企業に農地を明け渡さない官僚OBから疑問の声も…こうした農業の構造改革、農地の規制緩和にたいして、農水官僚OBの口からも疑問の声があがっています。元農水省農業総合研究所所長の島本富夫氏は「グローバル化、FTA、WTO体制下での無定見な構造改革・規制緩和を進めて、農産物市場全面開放の中で企業の自由な活動に任せてみて、成功しなければ日本農業は諦(あきら)めればよい(というのが)構造改革路線。…構造展望の実現不能を繰り返していては、企業一般の農業参入といった方向にますます拍車をかけることになる」(「農水省経営局構造改善課の委託調査報告書」〇五年三月)と警鐘を鳴らします。そのうえで「わが国の条件に適合的なわが国の背丈にあった農業の構造改革をすすめる必要がある。…それは、上から一方的に担い手を特定するとか企業に農地取得の道を開けば解決できるといったものではない」とのべています。 農民連、食健連などは昨年十二月、WTO閣僚会議にあわせて百人を超える代表団を香港に派遣。食糧主権を求めて、WTOに抗議の声をあげるとともに、各国の農業団体とも交流を深めました。マレーシアのNGO活動家、サロジェニ・レンガムさんは「日本の農地改革はほぼ完ぺきに行われ、東南アジアの農地改革のモデルと言うべきもの。それを改変して元に戻すなんてとんでもない。みなさんのたたかいが成功するよう祈ります」とのべ、日本の参加者を激励しました。 東南アジアを含む発展途上国の多くは、農地改革が実施されていないうえ、最近は外国資本を含む大企業が農地を農民から取り上げるという事態が進んでいます。日本で、農地を大企業に明け渡さないたたかいは、国際的にも大きな意義があります。
(新聞「農民」2006.1.23付)
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[2006年1月]
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