WTO香港閣僚会議閉幕
矛盾拡大、結論先送り
日本代表団108人 連帯の力に確信
新しい年のたたかいへ前進開始を
「WTOにしがみつく政府の姿勢を変えよう」――。十二月十三〜十八日に香港で開かれたWTO閣僚会議に農民連、食健連など九団体は百八人の代表を派遣しました。ビア・カンペシーナに加盟する農民組織をはじめ、世界中の農民と交流。また、香港市民から差し入れを受けるなど温かい歓迎を受けました。「国際的な連帯の大切さ、楽しさを感じた」というのが参加者の実感です。
同時に、閣僚会議は、肝心の問題で空欄や両論併記を残しながらも、閣僚宣言を採択し、今年四月末までにモダリティ(自由化の大枠)を作ることも決めました。新しい年の幕開けとともに、日本と世界の農業を守り、発展させる新たなたたかいが始まりました。
先進国、決裂回避を優先
閣僚宣言が“玉虫色”になったのは、「シアトル、カンクンに続いて、香港でも決裂したら、WTOは立ち直れなくなる」という危機感から、おもに先進国が譲歩したため。農業分野では、はっきりとした数字が盛り込まれたのはEU・アメリカが最後まで抵抗した輸出補助金の撤廃期限だけ。EUの輸出補助金やアメリカの輸出信用などが二〇一三年までに撤廃されることが決まりました。
一方、(1)一般の品目と区別して関税の削減率を小さくする重要品目の数や扱い(2)すべての品目に対してこれ以上の関税は認めないという上限関税を導入するかどうか(3)各国内の農業補助金の削減目標などでは、数字に幅をもたせるなど、両論併記の扱い。日本農業に直接影響する分野では、実質的な進展はほとんどありませんでした。それだけに、「香港での行動をこれからの活動にどう生かすのか」が、いっそう重要になっています。
ますます強まる途上国の発言力
閣僚会議を通じて議論されたのは、発展途上国に対する支援の問題でした。綿花などのダンピング輸出で途上国の農業を圧迫しているアメリカ・EUの輸出補助金の撤廃問題や途上国のなかでもとくに経済力が小さい後発途上国(LDC)の産品を先進国が無税で輸入する枠の拡大(「無税無枠」問題)などが終始、テーマになりました。
これは、カンクンで初めて“主役”になった、WTO加盟国の三分の二を占める途上国の力がますます強くなっていることの表れです。閣僚会議四日目(16日)午後、途上国を代表するブラジル、インド、インドネシア、ザンビアの閣僚がそろって記者会見し、「すべての途上国にとって最大の関心事は、先進国が約束を守ること」だと述べて、結束を強調。ザンビアの大臣は「香港では、輸出補助金、無税無枠、綿花の問題に特化すべきだ」と発言しました。
“カネでつる”先進国戦略破たん
これに対して、先進国のとった態度は、“カネで途上国をつる”ことです。日本、アメリカ、EUは閣僚会議開会を前後して、途上国向け政府開発援助の増額計画を相次いで発表。会議期間中、途上国と個別に会談し、懐柔工作を繰り返しました。
これら先進国の援助計画は、(1)企業の対外進出を支えるインフラ関連が中心で、援助とは名ばかりであり、さらには、(2)途上国の農業を輸出指向型に変え、農民を食料生産から切り離し、ますます貧しくさせる――という点で、二重に犯罪的です。インドネシアの大臣は会見で「最近の貿易交渉は途上国の市場を獲得することに熱心だが、食の安全や生活の改善、農村開発というものを、これとの交換手段にしてはならない。これらは人間本来の関心事であり、交渉の余地はない」と語り、批判しました。
香港で発揮した農民の国際的な連帯のうねりを日本の農業と農村を守る運動に生かすときです。
(新聞「農民」2006.1.2・9付)
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