「農民」記事データベース20051212-712-02

健康でこそおいしい鶏

タイで見たもう一つの養鶏

効率化より安全を優先

 鳥インフルエンザの宿主が野鳥であることから、野鳥との接触を断つ密閉式の鶏舎が推奨される傾向にあります。しかし逆に、大規模な工場養鶏こそ強毒性鳥インフルエンザを生み出す根源だと指摘する専門家もいます。もともと宿主を殺すことのない弱毒性のウイルスが、鶏から鶏へ感染を継いでいくうちに強毒性に変わるからです。

 タイで、自然のなかで鶏を健康に育て、おいしい鶏肉を生産している日本人の姿を、農民連参与の山本博史さんに紹介してもらいました。


 養鶏業界の変化は

 タイから日本への最大輸入農産物は鶏肉。鳥インフルエンザで生の冷凍鶏肉はいまも輸入禁止になっていますが、から揚げ・焼き鳥など加熱加工済み鶏肉は、日系企業を中心とした特定大規模業者から安く大量に輸入されています。日タイFTA/EPA大筋合意では、鶏肉調製品の関税が五年間で六%から三%まで削減されることになっており、今後も輸入拡大が予想されます。

 鳥インフルエンザ発生後のタイ養鶏業界の大きな変化は、契約飼育農家との関係を解消し、主要アグリビジネスが広い面積を高い塀で囲い込んで、ヒナから最終製品まで一貫生産する方式に転換したことです。閉鎖・密飼い方式で薬漬けの工場生産的な養鶏が最終段階まできています。これによって野鳥から直接の影響は避けられるかもしれませんが、鶏舎内にウイルスが侵入すれば全滅する恐れもあります。

 自然の中での飼育

 こうしたなかで、大規模養鶏業者と対抗する「もうひとつの養鶏」が注目されています。田中鴻志さんは、二十年前にスタートしたJICAの農協振興プロジェクトで活躍したあとも東北タイ・コラートの貧しい農村に残って、「出稼ぎしないでも暮らせる」村づくり支援を続けています。そのなかで、地鶏農場や絹織物でのちょうちん張りプロジェクトに取り組み、料理屋「水炊き黒田」を開店して鶏肉や卵の最終消費まで取り組んでいます。

 田中さんの養鶏は、自然の中で鶏の性質を尊重した飼育方法を採用しています。工場生産的な大型養鶏では一平方メートルあたり八〜十羽も飼育しますが、田中さんは地鶏二羽、しかもコンクリート床でなく土の上で育てます。これで鶏のストレスが解消されます。あたりまえのようにやっているビバーク(くちばしカット)もしていません。

 飼料も原料を地元から厳選して手に入れて自家配合し、酸化防止剤や抗菌剤などを使わず、主原料のトウモロコシのほか米ヌカ、桑の葉などを加えています。

 鳥インフルエンザ対策として、鶏の免疫力と自然治癒力を高める方法を採用しています。有用菌配合のサプリメントを米ヌカに混ぜて土にすきこみ、飼料にも混ぜ、鶏舎内の空気清浄化にも活用しています。鶏の病気はのどからの感染が多いからです。もちろん、野鳥の侵入対策として鶏舎をネットでおおい、周辺の雑草も焼却しています。

 こうした対応が功を奏して、周辺地域では壊滅的な打撃を受けて廃業せざるをえない業者も出たのに、田中さんのところでは鳥インフルエンザに負けない養鶏が発展しています。田中さんは、「健康な鶏こそ、安全でおいしい」と語っています。

(新聞「農民」2005.12.12付)
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2005年12月

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