農業組合法人“原体ファーム”にみる集落営農みんなで助け合い“地域づくり”“ものづくり”岩手・江刺市岩手県江刺市の「夢の里工房はらたい」は、売り上げ好調な人気のパン屋さん。パンの原料は地元で採れたお米、いま注目の米粉パンです。もちもちした食感が特徴で、「こんなに体にやさしいパンは他にない」と、お年寄りにも評判です。
政府・JAに資金頼らず地域農業を担う先頭に四方を小高い山に囲まれ、盆地の底に美田が広がる原体集落。農地面積は約百ヘクタール、農家戸数も約百戸。原体ファームには七十四戸が参加し、米や大豆のほか、ハウス野菜、ブルーベリーなどを栽培。集落の半分近い農地を耕作しています。
百年の計を考えた地域づくりを原体集落で“地域づくり”の機運が起こったのは十年前の基盤整備がきっかけ。原体ファームの組合長で、当時、基盤整備委員会の委員長を務めていた及川烈(いさお)さん(64)は、「百年の計を考えた地域づくりをやろう。集落の自然環境、生活環境、人間環境をよくしよう」と訴えました。
農家の3−4が参加半分近い農地を耕す及川さんは当初、基盤整備した農地を若い専業農家に集積するつもりでした。ところが、各地の先進地といわれる所を視察すると、「年々、減反面積が増え、米価は下落。優秀な経営でも、一番の悩みは後継者問題でした」。そこで九九年に集落の全戸が参加する任意の営農組合を結成。地域農業を組織として担っていこうと考え直しました。当時を象徴するエピソードがあります。組合設立の祝いの席に招かれた県の幹部職員は及川さんに「このやり方は県のマニュアルにない」と語ったそうです。当時、国や県の指導は、大規模な担い手の育成。これに及川さんは「ないものでやれと言われてもやれない。現場はあるものでやるんだ」と返答したそうです。 今でこそ、全国各地で集落営農がとりくまれています。これは、高齢化が進む農村集落で助け合い協力して“ものづくり”を続け、農地を守るとりくみです。ところが政府は、個々の農家と同様、集落営農にも規模要件(二十ヘクタール以上)を設け、それ以下を農政の対象から外す農業構造改革を断行しようとしています。政府に無理難題をつきつけられ、補助金目当てにかなり背伸びをして、形ばかりの集落営農の組織づくりを進めている自治体やJAもあります。
お金ないがやる気も知恵もあるしかし、原体ファームのとりくみは、これとは志の高さがまったく違います。〇二年の法人登記時こそ一口一万円の出資金を集めましたが、任意組合の時は「お金はないがやる気も知恵もある」とがんばりました。大豆の集団転作は、JAや自治体が尻込みするなか、「やってみなければ何が足りないのかわからない。やってみたうえで援助を求めよう」と始め、県内の先駆けになりました。中山間地等直接支払いを活用して米と大豆の乾燥施設を建設した時も、「初めから他人の金を当てにしたら失敗する」と、補助事業の申請をしませんでした。
米パン製造・販売で収入安定世帯数がふえ若い世代も定着米粉パンの工場と店舗の建設資金も自ら調達。中古で足りるものは中古品を探し、補助事業の場合の半額に費用を抑えました。それにしても、なぜ米粉パンか――及川組合長は、こう説明します。「ここでは、米は生産の軸にならざるをえません。まさに米は文化です。でも米は必ずしも収入の軸にはならない。豊作の年は安く、不作になれば売る米がない。農家は自分で作ったものに値段をつけられない。では『どうやって収入を安定させるか』と考えたすえに、米を使った加工品、米粉パンになったのです」。“ものづくり”への情熱が伝ってきます。 現在、米粉パンの製造・販売には常時二十人弱が従事し、地域の雇用も生み出しています。そして何より、原体集落の世帯数はここ数年で十戸以上増え、若い世代が定着しているそうです。「私は、若い人たちに『農外収入を求めてどんどん働きなさい。ただし、ここから通いなさい、定年になったら農業をやりなさい』と話しているんです」と及川組合長。また、原体ファームの常勤役員は三人で理事のうち専業農家は一人だけ。及川組合長も非常勤で、牛乳屋が本業の兼業農家。原動力は、地域への深い愛情です。
政府の押し付け構造改革は
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[2005年10月]
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