WTO香港閣僚会議(12月13〜18日)
“食料主権”を確立しよう
何が問題になっているのか
関税の削減方法で対立
関連/WTOに一言いいたい―声を募集
WTO香港閣僚会議(12月13〜18日)まで二カ月を切りました。これに向けてアメリカ、EUなど一部の国による“談合”会合が繰り返されています。「香港に向けて何が問題になっているのか」「農民連はどう臨むのか」――全国食健連代表者会議(10月1日)での真嶋副会長の報告を、その後の情勢を加筆して紹介します。
農民連・食健連の香港行動
参加者 目標の100人突破
収束をねらってあらたな提案も
WTO香港閣僚会議の成否をめぐって、日本とイギリスの保守系と言われる経済専門新聞―イギリスの「フィナンシャル・タイムズ」と日本の「日本経済新聞」―が五月と七月、似たような表現で「死にかけている貿易交渉」「このまま行けば、カンクンに続いて再び香港でも決裂する懸念が高まってきた」と報じました。この状況は基本的に今も変わっていません。
しかし、その一方で、WTO推進派の必死の巻き返しが始まっています。ファルコナー農業交渉議長は九月二十四日の会合で、十月第一週に農業委員会で集中審議、第二週に閣僚レベル会合を開催、第三週にもう一度開く農業委員会である程度の収束をめざし、第四週に政治的に困難な問題も解決の道を見出すという日程を提案。これに加えてEU出身のラミーWTO事務局長は十一月半ばに閣僚会議の草案を示したいと語っています。
そして十月十日からスイス・ジュネーブに十六カ国の閣僚が集まり、日本からは岩永農相と中川経産相が参加して、非公式の閣僚会議を開催。日本など食料輸入国グループ(G10)やアメリカが農業分野で新たな提案を行いました。
これをもって交渉が加速するという報道もあります。しかし、そもそもこうした少数の国で大勢を決めてしまうWTOの非民主的なやり方が、多くの発展途上国の反発を呼び、シアトルとカンクンでの決裂をもたらしました。こういう横暴を許すのかどうか、まさに剣が峰だと思います。
決裂の懸念の中 推進派 必死の巻き返し
関税削減の三つの方式の中では
では、こうした会合で何が問題になっているのか。農業をめぐっては、(1)市場アクセス(2)輸出補助金(3)国内支持(各国の農業政策への干渉)がテーマです。(1)の市場アクセスでは今、関税の削減方法が問題になっています。
図は、左から現行税率、それをUR(ウルグアイ・ラウンド)方式で削減した場合、一律削減方式の場合、定率削減方式の場合の順で並んでいます。UR方式というのは、品目によっては一四%でいいけれども、トータルとしては三六%の関税をカットするという方式です。数字は、ウルグアイ・ラウンドで使われたもので、今後の交渉次第でどうなるかわかりません。日本など「G10」の提案も基本的にこの方式です。
一律削減方式というのは、例えば四〇〇%の関税を二五%まで一気に下げるという方式で、アメリカやオーストラリアが当初主張。日本も、農業以外の分野ではこの方式の採用を求めており、工業分野での発展途上国の市場開放を強く迫っています。日本政府のこういう態度は、発展途上国の信頼と共感を損ねる原因になっていると率直に思います。
定率削減方式というのは、例えば関税の上限を一〇〇%にし、平均で三六%引き下げるという方式で、ブラジル、インドなど一部の発展途上国が提案しています。また、アメリカの新提案もこの方式で先進国の上限関税を七五%にするというもの。しかしこれは、後で見る国内支持で弱みのあるアメリカが交渉の駆け引きとして持ち出した、きわめて乱暴な提案です。
この三つの方式の中でどれか一つとなれば、UR方式が“まだマシ”に決まっています。日本政府やJA全中も基本的にこの立場です。
WTOとは別の土俵での交渉を
しかし私たちが要求するのはそうではありません。WTO協定は、ガット時代に認めてきた輸入数量そのものを制限する方法を認めず、国境保護の手段を関税に限る「例外なき関税化」を押し付けました。この時、アメリカの農務長官と通商代表をやったクレイトン・ヤイター氏は、「『関税化』によって非関税障壁を関税に転換した。その結果、許された関税はしばしば信じがたいほど高いものであったが、土俵は完全にアメリカのものになった。後はどんどん関税を引き下げる交渉をやっていけばいいんだ」と誇りました。今の交渉は完全にこの土俵の上で進んでいます。これとは別の土俵での交渉を求めるというのが、私たちの基本的な要求です。
(次回は、輸出補助金と国内支持の問題を取り上げます)
米自由化、リンゴ火傷病、輸入農産物の残留農薬基準…。「WTOにこんな被害を受けた」「WTOはこうすべきだ」といった声を募集します。香港行動に反映させるほか、紙上でも紹介します。
新聞「農民」編集部Fax03(3590)6953またはEメールinfo@nouminren.ne.jpへ
(新聞「農民」2005.10.24付)
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