世界に食べ残し、飢餓…
こんなイビツな関係許せない
『世界がもし100人の村だったら』の著者
池田 香代子さん
〔プロフィル〕1948年東京生まれ。ドイツ留学後、早稲田大学、中央大学などで非常勤講師を務めた。ベストセラー『世界がもし100人の村だったら』の再話を手がけ、その印税で「100人村基金」を設立し、支援活動を行う。アフガン難民キャンプ内の女子校も支援。専門はドイツ文学翻訳、口承文芸研究。世界平和アピール七人委員会メンバー。
日本口承文芸学会・日本文芸家協会所属。1998年、ピリンチ『猫たちの森』(早川書房)で第1回日独翻訳賞受賞。著書に『哲学のしずく』(河出書房新社)、新刊に『戦争のつくりかた』(共著)など。翻訳書に『グリム童話集(全5巻)』(講談社)、『ソフィーの世界』(NHK出版)など多数。
今年二月に発足した「女性『九条の会』――『九条の会アピール』に賛同する女性の会」の呼びかけ人であり、また「世界平和アピール七人委員会」のメンバーでもある池田香代子さん。『世界がもし100人の村だったら(3)』(たべもの編)では、世界の食料問題にひそむ「イビツな関係」を解き明かしています。忙しい合間をぬって、お話をうかがいました。
農地が耕作放棄され草ぼうぼう
『世界がもし100人の村だったら(3)』(たべもの編)が、農業関係の方たちから「とても分かりやすい」と好評だとのお話ですが、農業には全くの素人の私としては、お恥ずかしいかぎりです。
ご存じのように、世界には食べ残しを捨てている人たちがいる反面、飢餓に苦しんでいる人たちがたくさんいます。また日本のように食料自給率を下げている国があります。こんなイビツなことが、いつまでも許されていいんでしょうか。
講演で各地をまわると平場の農耕に適した土地が草ぼうぼうの耕作放棄地になっています。あれを見ると心が痛みます。
ネットから生まれた現代の民話
『世界がもし100人の村だったら』のもとのタイトルは『村の現状報告』で、作者のドネラ・メドウズさんは統計学を駆使する環境学者、村の人口は千人でした。それをインターネットで「伝言ゲーム」をしているうちに、いろんな人が書き込みや書き直しをして、いつの間にか『100人の村』に変わったんです。
そして私のところにもメールが流れてきて、リライト(再話)したのが『100人の村』です。これはインターネットから生まれた「現代の民話」だと思っています。
この本は9・11テロの三カ月後、二〇〇一年十二月に出版されました。アメリカなどによる「テロ報復攻撃」に世界の懸念が高まるなか、アッという間に百三十万部のミリオンセラーになり、海外でも翻訳されて、ホントにびっくりしました。
印税を救援資金に役立てている
翌年に『100人の村(2)』を、昨年は『100人の村(3)』(たべもの編)を出版しました。三冊で百五十万部になります。
ミリオンセラーは、私にとって二回目です。一回目は『ソフィーの世界――哲学者からの不思議な手紙』という本で、三百万部も読んでいただいています。『100人の村』の印税は、世界の困っている人たちの支援に役立てています。
私は「哲学」も「食料・農業」も専門外で、そのつど専門家の方がたの教えを受けながら完成させました。『たべもの編』は、私と編集者が相談し、「このイビツな世界を考えるときに食の問題がいちばん大切だろう。これから先どうなっていくんだろうか! どうにかならないんだろうか」ということから始まりました。
食料支援量が必要量に達せず
『たべもの編』にも書きましたが、「一キロのお米を作るのに四トンの水を使う。一キロの牛肉を作るのに二十トンの水を使う」んですね。日本は水が豊富だといわれていますが、世界には飲む水にも不足している国があります。
日本の食料自給率は、カロリー換算で四〇%。六〇%は輸入に頼っています。その六〇%の食料を生産するのにどれだけの水を使っているのか。外国の貴重な水資源を使った食べ物だと思ったらギョッとしました。
そのカロリー自給率の四〇%という数字ですが、農水省は最近、「カロリー換算でなく、金銭換算にしよう。そうすれば自給率は八〇%くらいになる」と言いだしています。おかしいと思います。
では、食料の重さで換算したらどうか。自給率が一五%にしかならないんです。数字のごまかしなどせずに、本気になって自給率を上げる対策を立ててほしいですね。
それから軽視できないのは「食べ残し」の問題です。日本中の食べ残しの量は、年間二千万トンにもなっています。一方、食料支援に集まる食べ物の量は、世界中、全部足しても一千万トンで、必要量に達していません。
徴兵制の導入をねらう勢力が…
先日の総選挙で、自民党などは「憲法改定」や「イラク問題」が論点になるのを避けていましたが、実は、陸上自衛隊がイラクへ派兵される前に、防衛庁の局長だった人から話をうかがう機会があったんです。
彼の話によると「今どうしても陸自をイラクに出さなければいけないという人たちがいる。すでに海自や空自は出ているが、これでは犠牲者が出ない。陸自は犠牲者が出る率が高い。犠牲者が出ると、内閣の一つくらい吹っ飛ぶかも知れないけれど、あの程度の装備で出したのが悪いと同情されるだろう。それはありがたいけれど、狙いはそこでもない」
「家族が心配して退官させるだろうし、新規の入隊者も減って、二十四万人の自衛隊が維持できなくなる。その時こそ徴兵制を実現させるチャンスで、それを狙っているんだ。だから反戦派は『犠牲者が出たら内閣総辞職だ』と手ぐすね引いているだろうが、とんでもない。十年をめどに、徴兵制を導入しようとしている勢力があるんだ」と言っていました。
それが今から二年前です。八年後に実現となると、いまの小学校五、六年生から中学生たちが徴兵の対象になります。
イラクに派兵されている自衛隊の人たちには、本当にひどい話です。撤退が約束された今年十二月には、必ず無事帰ってきてほしいですね。
(聞き手)角張英吉
(写 真)関 次男
(新聞「農民」2005.10.3付)
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