新聞「農民」700号記念特集号

あ　な　た　に

秋村　宏（『詩人会議』編集長）

米をつくる人が 好きだ 野菜をつくる人が好きだ すべての農業に携わる人が好きだ あなたは世界の真んなかにいて 輝いている 土から 生命を生みだす人よ 種を蒔いてから実を熟らせるまでの あなたの子守歌がきこえる その声は優しく 粘りづよく 力強い 誰もが豊かであってほしい あなたはそう思っているだろう 世界の多くの人たちが飢えているなんて 許せない あなたは食糧を生産する人だから 許せる筈がない あなたの汗 喜怒哀楽 そのすべてを食べてもらいたい と思うにちがいない あなたは世界中の人たちと友だちなのだ 誰でもが必要に応じて食べる権利がある そう思わない？ 生産が 売り買いの需要によって決められていくだけで いいのか あなたは社会の不平等をなおそうとしない人たちを 許さない なぜならあなたは物をつくる人だから 人間の生命を支える人だから あなたの存在は平和そのものだから あなたは未来への道なのだ あなた一人は小さい 大企業や銀行や国家権力や多国籍企業のまえでは小さい けれどあなたは一人ひとりの独自なじぶんだ 土はすべての生きものの船だから あなたはそこの舵とりだ といいたい あ 無数の船がみえる あ それぞれが美しい あなたは動き 走る そうだ 気づいているかもしれないが あなたは開かれた世界にむかっている 失意も絶望も困難も 慣れてしまってはそのままになる 希望はやはり泥のなかから生まれ いまの暮らしの中身を 的確にみるところからはじまる その眼は 意志の強い心につづき 心はいまを変えていく勇気にささえられる にわとりも牛も豚も羊も好きだ 花も木も好きだ じぶんのおもいを率直にいうことも好きだ 収穫も祭りも好きだ 暗い顔 悩んでいる顔さえ好きだ 人と人のぬくみが伝わり 愛が真んなかに光っているのがいい あなたが好きだ そう あなたがどこまで行っても 隣りにいたいし いまを切り開くあなたのたたかいの光りを 浴びていたいのだ