「農民」記事データベース20050919-700-06

本の紹介

三上 満 著「野の教育者・宮沢賢治」

宮沢賢治の思想を現代に生かすには


 本書は、筆者が、“人びとのほんとうの幸い”を求め続けた宮沢賢治の思想を、今の時代に生かすために書いた本です。

 第一部は、「たしかな人間観」を持った賢治の作品と教育実践を通じて、現代の競争をあおり、管理がはびこる教育を批判。きまり切った貧しい尺度で子どもを切り捨てず、共感する心を豊かにしようと訴えます。また、筆者が校長を務める看護専門学校での実践を紹介しながら、“ほんとうの学び”とは何か、示唆します。

 第二部は、賢治の人間像はひとことで言って「農の人」という筆者が、「農への賛歌」ともいえる作品を紹介しながら、“農の心”を育てようと呼びかけます。また、そのためには農業そのものがしっかりした基盤を持たなくてはならないとして、農民連の活動を「現代の“地人”」と紹介しています。

 第三部では、「報復」を拒否し、“世界ぜんたいの幸福”を願った賢治の平和思想に光を当てます。同時に、賢治の時代には見出しえなかった、その願いを実現する力が、憲法九条や、イラク戦争に反対する世界的な世論と運動のなかに育っていると指摘しています。

 第四部では、賢治作品を通して、豊かな自然とのふれあい、また人とのふれあいのなかで生まれる喜びや悲しみも含めた生の営みの豊かさが、生きる豊かさにつながると述べています。

 本書は、平易な文章で賢治の作品とそこに込めた思いを紹介しているだけでなく、筆者の熱い思いも伝わってきて、心を強く動かされます。

(新日本出版社 本体1600円)

(新聞「農民」2005.9.19付)
ライン

2005年9月

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