「農民」記事データベース20050822-697-05

中学校の教科書 農業・食料の記述は―

チェックしてびっくり あまりにも大きな違い

 いま各地で、来年四月から使用する中学校教科書の採択が行われています。社会科の農業、食料についての記述がどうなるのか、比べてみてビックリ。食料自給率の向上や農業の振興が必要と記述しているものもあれば、貿易の自由化が大切という教科書もあります。

 いま侵略戦争を美化する「つくる会」の教科書(扶桑社)が大問題になっていますが、農業、食料の記述もチェックする必要があります。


貿易自由化の影響 的確に
国土・環境保つ役割正しく

 自給率について、東京書籍・地理は「日本の農作物の自給率は、近年おおはばに低下しています。特に一九九〇年代なかばから始まった農産物の貿易自由化が与える影響は大きく、オレンジ、牛肉など、多くの農産物がアメリカや中国などから輸入されるようになりました」と現状を的確にのべています。

 また教育出版・公民は「農業や林業や水産業は、食料をわたしたちに供給するだけではありません。美しい景観をつくりだし、文化や伝統の基礎を保つ役割をはたしています。また、水田や森林には、水資源を保って洪水を防いだり、二酸化炭素を吸収して空気をきれいにしたりするという、国土や環境を保つ役割もあります。日本は、食料などの自給率を高めるとともに、いろいろな役割をはたしている第一次産業を発展させる必要があります」と、農業の役割を正しく指摘。

 清水書院・公民は「一九九五年の新食糧法によって政府の米政策は転換され、米の生産・販売は市場における自由な競争が基本となった。また、米とともに他の農作物の輸入自由化がすすめられて、農家は国内だけでなく、外国の農家とも競争しなければならなくなっている」と、自由化の問題点に言及しています。

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農産物の自由化を肯定的に
低い自給率は当たり前と

 一方で、大阪書籍・公民は「食料の多くを外国から買っているわが国としては、農産物貿易の自由化を進め、輸入をできるだけ安定的に確保できるようにすることがたいせつです」と、自由化を肯定的に描写。

 さらに「日本人の食生活は、かつての米などの穀物や魚中心の食生活に比べると、肉や乳製品も多く食べられるようになりました。そして、貿易や交通手段の発達によって、昔は簡単に手に入らなかったものを食べられるようになりました。冷蔵庫や電子レンジの出現によって、レトルト食品や冷凍食品などが出まわっています。また、ファミリーレストランやファーストフードなどの登場で、外食することも増えました」と、外食やファストフードの普及を当然視しています。

 扶桑社・公民は「わが国の総合食料自給率は、カロリーベースで約四〇%、金額ベースで約七〇%であり、先進諸国の中でとくに低い水準である。それでも、私たちは世界の食材を手に入れ料理を口にすることができる。その豊かさは貿易によるものといっていい」と、自給率が低くて当然だと記述しています。


農業の真理から子らを遠ざける教育行政

 全国農業教育研究会・相原昭夫事務局長の話 新聞「農民」編集部が紹介した教科書の記述の例は、前後の文章から切り離した部分ですから、全体の傾向や意図をおしはかるのは難しいのですが、教科書検定に合格するために教科書調査官の指示にそって不本意ながら訂正をしていった過程は十分に想像できます。

 ただでさえ難しい農業問題を、やさしく教えるのは本当に難しいのですが、それだけに「子どもに真理を教える必要はない」という考え方を根本にした教育行政が、教科書の記述を真理から遠ざけるのはわけもないことです。

 そういう教科書を使って授業をする先生が、農業について正しい認識を持っているかどうか、ということが問題になるでしょう。先生がそれを自覚して、教科指導を工夫するよう期待しています。


農家・消費者 見た感想

 新聞「農民」編集部では、新中学校教科書の記述を列挙し、「問題だと思われる記述」にチェックしてもらうアンケートを実施しました。農家や消費者から寄せられた感想を紹介します。

 ・輸入が当たり前、減反は農家が悪いように思える。子どもたちには真実を話してほしい

 ・「農業は大事な産業であり、すてきな職業です」という内容を入れてほしい

“農業は大事な産業”の内容入れて!!

 ・食料自給率を上げるための対策、それが必要だという姿勢が大切だと思います。輸入に頼ればいいという方針を、子どもたちに教えているのはおかしいですね

農業の真の姿を子らに伝えてほしい

 ・農業教育がこのように表現されているのを初めて知りました。食料問題について正確な情報を記述し、世界のそれぞれが自国の作物を大切にしながら、生きていかなきゃと思います

 ・「農業」として区切るのでなく「環境」「食べ物」、そして「健康」(体・心)との連関のなかで位置づけるべきだ

(新聞「農民」2005.8.22付)
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2005年8月

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