「農民」記事データベース20050815-696-06

「つくる会」教科書の危険な中身

歴史を動かした農民の姿消え侵略戦争と植民地支配を美化

子どもと教科書全国ネット21事務局長 俵 義文

関連/連日の国会抗議行動

 来年四月から使用する中学校教科書の採択が行われています。新しい歴史教科書をつくる会(「つくる会」)の歴史教科書(扶桑社版)の問題点と、全国の状況について、子どもと教科書全国ネット21事務局長の俵義文さんに寄稿してもらいました。


 「つくる会」の歴史教科書は、歴史をわい曲し、アジアをべっ視し、韓国への植民地支配を正当化、日本の侵略戦争を自存自衛のアジア解放戦争などと美化するものです。この教科書は、人物コラムの最初が神武天皇で最後が昭和天皇というように、天皇と国家中心に歴史を描き、民衆の視点を欠き、とりわけ女性がほとんど登場しません。

 百姓一揆の内容バッサリ削る

 歴史を支え、動かしてきた農民の姿もほとんど描かれていません。いま、中学校で歴史を学ぶ子どもの九〇%以上は江戸時代の農民の子孫です。他の七社の教科書では、時代ごとに農民の生活や様子が書かれています。とりわけ、江戸時代の百姓一揆は、かなりのスペースを使って記述。そこでは、当時の農民が首謀者をわからないように「唐傘連判状」(郡上一揆の映画や芝居に必ず出てくる)というすばらしい知恵を生み出してたたかったことを紹介し、この連判状の写真は七社中五社が掲載しています。

 ところが、これについて「つくる会」教科書は、「百姓は年貢を納めることを当然の公的な義務と心得ていたが、不当に重い年貢を課せられた場合などには、百姓一揆をおこしてその非をうったえた」とあるだけです。江戸時代に登場する農民は二宮尊徳だけです。

 「慰安婦」ふれず露骨な改憲姿勢

 「つくる会」は、南京大虐殺や「慰安婦」は「日本を糾弾するためにねつ造されたうそ」と主張しているので、日本によるアジアの民衆への加害はほとんど書いていません。それだけでなく、日本の民衆の被害もほとんどなく、原爆の被害者数も書かれていません。戦争の悲惨な面はなにも描かれていません。

 また、公民教科書は、国民主権の説明で「一人ひとりには主権はない」としています。さらに日本国憲法を、一度も改定されていないため「世界最古の憲法」などとゆがめ、改憲が必要だと子どもたちに刷り込む内容です。八木秀次「つくる会」会長が「男女共同参画は革命思想」と主張するように、男女平等を敵視した内容です。「つくる会」教科書は、戦争をする国の国民をつくるための政治運動の道具としてつくられたものです。

 ゆがんだ歴史観にアジア諸国は

 こんな教科書が多く採択されれば、日本の子どもたちの歴史認識・社会認識は大きくゆがめられ、「お国のために命を投げ出しても構わない」という戦争国家を支える人間がつくられます。また、アジア諸国からの批判・抗議はさらに高まり、日本はアジア・国際社会で孤立することになります。

 「つくる会」教科書を採択させるために、自民党は党をあげて活動しています。これは教育基本法第一〇条が禁止している政治の介入ですが、自民党は違法行為をなりふり構わずに行っています。

 全国にひろがる採択拒否の運動

 一方、この「あぶない教科書」を全国五百八十四の採択地区全てで阻止するために、各地で多くの人たちがネットワークをつくり、精力的に活動に取り組んできました。残念ながら、栃木県大田原市や東京都立の中高一貫校とろう学校・養護学校で、この歴史・公民教科書が採択されましたが、公立中学校の採択地区では、八月二日現在、すでに半数以上の地区で採択が終わり、大田原の一地区に押しとどめています。

 私たちは、戦争の未来ではなく、平和と友好の未来をつくりだしたいと考えています。一九四五年の敗戦まで、日本はアジアの火種であり続けました。そして今日、再び「戦争をする国」に向かって、教育基本法・憲法を改悪しようとしています。東アジアの平和な共同体を目指すうえで、歴史認識の共有は前提になります。

 私たちは、三年の歳月をかけて、日中韓三国の共同編集で『未来をひらく歴史―東アジア三国の近現代史』(高文研)を発行しました。この本は、「つくる会」教科書による歴史わい曲を乗り越えて、共通の歴史認識をつくりあげる役割を果たすものだと思います。


許すな「郵政」「障害者」法案

連日の国会抗議行動

 郵政民営化法案や障害者「自立」支援法案をめぐって緊迫する国会前。国民大運動実行委員会、中央社保協、安保破棄中央実行委員会は三〜五日、連日の座り込み行動にとりくみました。

 「民営化は利用者にとって何一ついいことはない」(郵政の労働者)、「この法案が通れば、私たちは生きていけなくなる」(車イスの障害者)と訴えが続き、共産党・紙智子、社民党・近藤正道両参院議員が国会情勢を報告しました。

(新聞「農民」2005.8.15付)
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2005年8月

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