“12月までの交渉が一層厳しくなった”事務局長今年12月開催――WTO香港閣僚会議決裂したカンクンと似た状況にWTOは今年十二月十三〜十八日、香港で第六回閣僚会議を開きます。しかし現時点では、これに向けた準備がはかどっていないことは明白。今後の行方は予断できませんが、WTOは今、「死にかけている貿易交渉」(フィナンシャル・タイムズ05年5月4日)といわれるほど停滞・混迷状態におちいっています。
“死にかけている貿易交渉”WTOは七月十二〜十三日、中国・大連で「非公式ミニ閣僚会議」を開催。会議終了後、スパチャイWTO事務局長は「日程的な『後退』」を認め、「十二月までの交渉が一層厳しくなった」との認識を示しました。(共同通信7月13日付)WTOは当初、七月中に香港閣僚会議に向けた提案準備を終える予定でした。大連のミニ閣僚会議も、その重要なステップとして位置付けられていたもの。ところが、WTO農業交渉グループのグローサー議長は七月八日までに示すはずだった「たたき台素案」の提示を延期。「今のままでは七月末提示も難しい」としてミニ閣僚会議に希望をつないでいました。しかし同会議が成功しなかったことはスパチャイ事務局長が認めた通りです。 WTOは、カンクン閣僚会議(〇三年九月)の決裂から十カ月半後の昨年八月、一般理事会を開き、「枠組み合意」を決定しました。しかし、これは三段階(注)あるWTO交渉の第一段階。カンクンでめざしたのは「モダリティ合意」であり、振り出しに戻ったというのが実態です。しかも、その後の交渉は遅々として進んでいません。 「枠組み合意」にもとづく農業交渉のテーマは市場アクセスだけでも七項目、国内支持が三項目、さらに輸出競争も三項目あり、その他が二項目で、合計十五項目。この一年間で合意に達したのは「従価税換算の方法」ただ一項目で、残り十四項目が妥結するまでに十四年かかってもおかしくありません。これを香港閣僚会議までの四カ月で合意に持ち込むとすればアメリカなどの乱暴なゴリ押し以外にはありえません。
たたき台素案の提示延期 非公式ミニ閣僚会議失敗準備はかどらず何が議論され、今後の焦点は?それでは、WTO交渉の現場で何が議論され、何が今後の焦点なのか?市場アクセスで焦点になるのは、a関税引き下げ・撤廃の方式、b重要品目(センシティブ品目)の数など。(ほかに、発展途上国の特別な扱い)
a関税引き下げ・撤廃の方式「枠組み合意」されているのは、関税率の大小によって階層分けし、関税率が高いものほど大幅に引き下げること(階層方式)。しかし、(1)関税削減方式、(2)上限関税を認めるかどうかという肝心な部分は今後の交渉対象とされています。(1)関税削減方式をめぐっては、“農産物全体の関税を平均して何%、品目によっては最低何%引き下げる”という「ウルグアイ・ラウンド方式」(日本や韓国、EU、スイスなどが主張)と、関税の上限を何%に設定し、一律に削減する「スイス方式」(アメリカやオーストラリアなどが主張)が対立。G20グループはミニ閣僚会議で、アメリカ・EUとすりあわせたうえで「定率削減方式」を提案しました。これが、両者の中間に位 置すると評価され、日本政府も含めて「今後の交渉の出発点」にすることで合意されたといわれています。(図) しかし、この方式は、それぞれの農産物の重要性に関係なく、機械的に関税を削減し、「アメリカなど輸出国が主張する一律削減方式より現実的だが、厳しさは同じ」(日本農業新聞7月15日付)ものです。 (2)これにもまして鋭く対立しているのが上限関税。高関税を課している品目は、それが各国農業にとって重要な品目だからですが、上限関税はこれを認めず、たとえば一〇〇%以上の関税は禁止するという提案です。交渉の過程でアメリカは一〇〇%の上限関税を提案。G20グループも先進国は一〇〇%、発展途上国は一五〇%を提案し、「アメリカの言い分を取り入れたもの」(日本農業新聞、同前)です。
b重要品目(センシティブ品目)日本や韓国、スイスなどG10グループは、重要品目を関税削減の対象からはずすこと、品目数は各国の自主性にまかせることを要求。一方、アメリカやオーストラリアは、あくまでも関税削減の例外措置におしとどめ、品目数を限定し、見返りにミニマム・アクセス数量の拡大などの代償措置を要求しています。G20グループの提案も、品目数を限定し、代償措置を求めており、アメリカなどと同じです。 日本政府などの戦略はかりに定率削減方式が基調になったとしても重要品目のルール化で米などを守ろうというもので、自由貿易万能主義を是認したうえでの、ひざまずきながらの抵抗です。しかも一般品目よりは関税削減率を低くするものの重要品目についても関税削減を認めています。 たとえ部分的な修正や妥協が加えられたとしても、WTO流の自由貿易主義は、世界の国々と民衆の食糧主権を踏みにじり、世界の農業を台無しにするものです。
会議を決裂に追い込む決意 アジアの農民運動シアトル(99年)、カンクン(03年)に続いて、アメリカやWTOの横暴にストップをかけることができるかどうか。香港閣僚会議は、WTO流の自由貿易推進派にとってもこれに反対する世界の民衆にとっても正念場。農民連が加盟した世界的な農民組織ビア・カンペシーナは、破たんしつつあるWTOルールに対する対案――食糧主権にもとづく貿易ルールの確立を要求しています。とりわけ香港をかかえるアジアの農民運動は、閣僚会議を決裂に追い込む決意で、迎え撃つ準備を進めています。
(注) WTO交渉の進め方は、(1)交渉の原則を定める「枠組み合意」、(2)これにもとづき、数字を含む共通の基準を定める「モダリティ合意」、(3)そして各国が関税や国内措置の削減率を提示し、それを束ねた「最終合意」の三つの段階がある (新聞「農民」2005.8.1付)
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[2005年8月]
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