バラ科の果樹、花木に重大被害リンゴ火傷病の日米検疫問題(下)弘前大学教授・宇野忠義
望まれる「予防原則」の確立遅れている研究WTOの紛争解決機関(DSB)は二〇〇三年十二月、アメリカの主張を認める上級委員会報告を採択しました。日本は、WTOの勧告を受け入れて、昨年六月、緩衝地帯を五百メートルから十メートルに、年検査回数を三回から一回にするなど検疫制度を大幅に緩和しました。しかしアメリカは、それでも不十分としてWTOに再提訴し、この度、アメリカの主張を認める最終報告が出され、日本の敗訴が確定しました。日本は最終報告に従って検疫制度をいっそう緩和するか、対抗措置(百五十五億円の報復関税)を受け入れるか、さらなる協議に入るものと思われます。ところで日本では、未発生ということもあって、火傷病の研究が極めて遅れており、植物防疫所調査研究報告など、限られたものしかありません。国の研究機関と防疫所・行政が一体となった相当規模の火傷病に関する研究・検疫対策プロジェクトが緊急に必要です。一時的に取り組まれていたようですが、日本の立場を反論し、対策をたてるためにもさらなる科学的な研究が不可欠になっています。
輸出国側に有利また国際的にはWTO体制に問題があります。フランスのスーザン・ジョージも指摘するように(『WTO徹底批判』、作品社)、特に「技術的貿易障壁に関する協定」と「SPS協定」は、輸出国側に極めて有利にかつ優位になるように決められています。本来は、食料や公衆衛生、環境などが危険にさらされることが予測される場合には、政府は、絶対的な科学的証拠がなくても、人間や生物、環境の安全の保護のために予防措置を執りうるという「予防原則」が、全く排除されています。また、「科学的証拠」の立証においても、輸出国側あるいは強者の訴えに有利になる仕組みになっており、公平中立を欠いたものと言わざるを得ません。こうした点を改正しなければなりません。侵入を許さないための万全の体制と措置を強く望みます。(おわり)
(新聞「農民」2005.7.11付)
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[2005年7月]
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