「農民」記事データベース20050704-690-04

バラ科の果樹、花木に重大被害

リンゴ火傷病の日米検疫問題(上)

弘前大学教授・宇野忠義


有効な防除が極めて困難

 リンゴ火傷病は、「火傷病菌」という細菌によって蔓延(まんえん)し、バラ科のリンゴ、ナシなどの果樹やバラ科の花木類を侵す最重要病害です。

 日本では未発生ですが、いったん侵入すると高温多湿の気象風土、山野の生態系や農業、林野の栽培管理の衰退状況などを考慮すれば、壊滅的な被害が避けがたいと予想されます。

 WTO(世界貿易機関)は二十三日、日米間のリンゴ火傷病の検疫問題で、アメリカの主張を認める最終報告をまとめ、日本の敗訴が確定しました。今後、その研究や対策が緊急不可欠です。

 火傷病は、もともとアメリカ東部にあった風土病で、その後、北アメリカ全体、ニュージーランド、ヨーロッパのほぼ全域から西アジア、エジプト、一九九七年にはオーストラリア、二〇〇一年にはフランス全土にも分布を広げ、いったん侵入した国では、発生が自然消滅することなく蔓延しています。

 急速に広く伝播

 病原菌は、花器や付傷部、開口部から侵入し、花、枝、幹へと広がり、枯死を引き起こします。そして着生植物の組織内で生存、拡張し、腫瘍(しゅよう)や宿主によって越冬。特徴的なことは、雨風や昆虫、鳥の媒介という多様な方法で、急速かつ広範囲に伝播(でんぱ)し、特に高温、多湿の地域では、病勢は著しく進み、感受性の強い樹種の場合には一年で園地が壊死し、甚大な被害をもたらします。

 さらに、有効な防除が極めて困難なことが、世界各地でリンゴ、ナシなどに甚大な被害をもたらす原因ともなっています。感染防除のためにストレプトマイシンが使用されていますが、耐性菌が発生し、新薬開発との悪循環が生じています。アメリカでは、リンゴ火傷病による年間損失とその防除費は一億ドル以上と見積もられています。そのためアメリカは、二十一世紀の戦略として、遺伝子組み替え樹種による抵抗樹の育成と販売を戦略的課題としています。

 侵入阻止の措置

 これに対して日本は、一九九四年、リンゴ輸入に際して、火傷病の完全無病園地の指定、輸出用リンゴ園周辺に五百メートルの緩衝地帯を設置、年三回の園地検査、果実の表面殺菌という検疫措置を課してきました。侵入を阻止するためには、当然の措置です。ところがアメリカは、二〇〇二年、日本のリンゴ火傷病の検疫措置には科学的根拠がなく、「衛生植物検疫措置の適用に関する協定(SPS協定)」に違反しているとして、WTOに訴えました。
(つづく)

(新聞「農民」2005.7.4付)
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2005年7月

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