アメリカの対策
ズサンどころかBSE牛見つけない策だ
食健連 BSE訪米視察団
関連/全頭検査は消費者の信頼を回復する唯一の方法
アメリカ産牛肉の輸入再開の是非が食品安全委員会に諮問されるなか、全国食健連・農民連はアメリカにBSE視察団を派遣(5月30日〜6月6日)。佐々木健三・農民連会長、坂口正明・食健連事務局長をはじめ、石黒昌孝・食品分析センター所長、福永隆・全農協労連副委員長と私(二瓶康一)が参加しました。視察を通じて、アメリカの対策は「ずさん」を通り越して、“BSEを見つけないための対策”との感を強くしました。
3500万頭で検査はたった37万頭
検査官は企業の監視下に
報告書も農務省が握りつぶし
怪しい牛はヤミからヤミへ
アメリカは最もBSEに汚染!?
食品安全委員会が輸入再開の是非を議論すれば当然、アメリカのBSE汚染度が問題になります。会談したアメリカ農務省や食肉輸出連合会は「アメリカの牛は安全だ」と口をそろえますが、これには消費者団体、ジャーナリスト、科学者から異論が続出しました。
「もしかしたらアメリカは最もBSEに汚染された国かもしれない」と危機感を募らせるマイケル・ハンセン博士。その理由として、不徹底な飼料規制をあげます。
「九七年の肉骨粉禁止法は、牛肉骨粉を使った飼料に表示を義務づけたにすぎない」と指摘。「BSE牛を、別の牛が食べる可能性は少なくとも四つある」として、(1)牛肉骨粉を鶏・豚のエサにしてよいことから起こる交差汚染(2)牛の血液を食べさせてもよいこと(3)牛肉骨粉を食べた鶏のフンをエサにしてよいこと(4)Tボーンステーキなど人の残飯を介した感染―をあげました。
企業と政府による情報隠しが…
BSEがまん延しているとすれば、なぜ一、二頭しか見つからないのか―。それは、企業と政府による情報隠しに他なりません。
アメリカの食肉は、と畜から加工、販売まで一貫して行う「パッカー」と呼ばれる企業によって供給されます。業界は、タイソンフーズ、エクセル、スイフト、ナショナルビーフパッキングの四大パッカーが八割のシェアを占める寡占状態。政治にも強い影響力を持っています。
牛肉のと畜頭数は年間約三千五百万頭。しかし検査を受けるのは三十七万頭でわずか一%に過ぎません。そして、どの牛を検査するかは事実上、企業が決めているというのです。
農務省から派遣された食肉検査官がいますが、「企業につねに監視され、十分調査できない。正しい報告をあげたとしても農務省に握りつぶされる」とロニー・カミンズさん。さらに「本当にあやしい牛はヤミからヤミへと葬られる」(カミンズさん)、「農務省は、どこでどんな牛が検査されたか、いっさい公表しない」(パティ・ロバラさん)といった実態が見えてきました。
食糧主権に基づく農民の連帯を
BSE問題は、アメリカの食と農が抱える問題を浮き彫りにします。それは、巨大アグリビジネスの壁で農家と消費者が分断され、そのもとで深刻な食品汚染が起きるとともに、「多くの農民は輸出がアメリカ農業を救うと思い込まされている」(シーバー・ピーターソンさん)こと。
これに対して、全米家族農家連合や農業・貿易政策研究所は、ファーマーズマーケットの開設や学校給食への地場産農産物の供給など産直運動にとりくみ、また国際的には食糧主権にもとづく世界の農民の連帯を追求しています。
「BSE問題は、食料のグローバリゼーションが根幹にある。力を合わせて工業化農業をやめ、正しい生産を広げていくことが大事だ」(カミンズさん)という言葉が、力強く響きました。
農業・貿易政策研究所(IATP)所長 マーク・リッチーさん
全頭検査は、牛肉に対する消費者の信頼を回復する唯一の方法であり、BSEの伝染を防ぐ最も効果的な方法だ。なぜ政府が拒否するのか、私には理解できない。アメリカ牛の中から新たなBSE牛を発見してしまうことを恐れているのか。イラクが大量破壊兵器を保有しているとウソをついたように、アメリカ国民をだまそうとしているのかもしれない。
しかし、どんな理由があるにせよ、最も被害を受けているのはアメリカの消費者と農民だ。もし政府がこのままアメリカの農産物の信用を傷つけ続けるならば、アメリカの家族農業の危機はますます深まるだろう。
今こそ、アメリカの農民と消費者が立ち上がり、政府に対して「君たちはわれわれの安全を脅かし、未来を壊している。間違っている」と声を上げることが重要だ。そして、日本とヨーロッパの消費者・農民が、アメリカの消費者・農民を支援してくれればすばらしい。
(新聞「農民」2005.6.27付)
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