「農民」記事データベース20050620-688-04

国際会計基準と農協経営〈解説〉(上)


組合出資金は資本か負債か

 いま国際会計基準の見直しが進められ、「会計ビッグバン」とよばれています。経済活動のグローバル化のなかで、企業が海外で資金を調達するのに、投資家が企業実績を適切に判断できるように、各国ごとに異なっている会計制度を国際的に統一する必要性から取り組まれているものです。

 二〇〇二年九月には、この作業を進めている国際会計基準審議会とアメリカ財務会計基準審議会が合同会議をもち、国際基準とアメリカ基準を「収斂(しゅうれん)」させる合意が行われました。また、〇五年以降、EU諸国でも上場企業の正式基準としてこれが採用され、EUに進出している外国企業にも二年間の猶予のあとに適用されることで、いま「二〇〇七年問題」とよばれています。

 国際会計基準が農協運営に影響

 農協は、一部の全国連を除き、直接海外での事業活動に取り組む例はほとんどありませんが、行政指導でこの国際基準の一部が適用され、農協運営に影響が出ています。

 昨年六月に国会を通過して今年四月に発効した農協法改定と、それにともなう各組合の定款改正で、脱退の際に出資金(持ち分)を「譲渡」させる規定となったのも、この国際基準の影響です。

 基準見直しの中で、協同組合の組合員からの出資金は、払い戻しが行われることを理由に、資本でなく負債(一種の金融商品)とみなされました。これに対して、「加入脱退の自由」や「出資配当制限」など協同組合の原則と存続を脅かすものとして、国際協同組合同盟はじめ世界の多くの協同組合から反論が相次ぎました。そのため、昨年六月に「解釈指針案」が示され、「組合員が出資金の払い戻しを請求できる契約上の権利は、それ自体では組合員出資を金融負債に分類する理由にならない」と柔軟性が示されました。

 組合出資金の本質をゆがめる

 しかし一方で、資本と認める条件として、(1)企業が組合員出資の払い戻しを拒否できる無条件の権利を持っていること、(2)国内の法律・規則または企業の定款で、組合員出資の払い戻しを無条件に禁止していること、の二つをあげています。つまり、出資金の流出防止が確保されることが資本であることの指標とされました。

 今回の農協法改定では、未確定のこの趣旨を先取りした形で、組合員が出資口数を減らすときの必要条件を上げ、脱退する際には出資金を他の組合員または農協に譲渡すべきことが規定されたのです。

 一九九五年の国際協同組合原則の見直しで、組合への「第三者出資」が容認され、日本でも当初は農林中金だけに認められていた「優先株」(議決権なしの優先配当株)発行が農協や漁協の単位組合にも認められたことが、こうした組合出資金の本質をゆがめ、金融商品とみる流れを生み出した背景にあります。

(つづく)
(山本博史)

(新聞「農民」2005.6.20付)
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2005年6月

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