「農民」記事データベース20050606-686-16

ガンで「余命半年から1年」と告知されてもピンピン元気です

元衆議院議員 田中美智子さん

 いま『さよなら さよなら さようなら』という本が話題になっています。著者は元衆議院議員(日本共産党・革新共同所属)の田中美智子さん(82)。「余命半年から一年」と宣告されて書き始めたエッセー集が実に面白い。術後二年近くなるのにピンピン元気で、各地への講演や旅行、執筆と忙しい毎日です。


憲法改悪許さぬため死ぬまでたたかう

 あら生きてる生きてたよ!

 名古屋で五月に出版記念会が開かれたとき、たくさんの友人知人たちから「美智子さん本当に生きてる、生きてたよ!」と歓声が上がって、私のほうがびっくりしちゃった。(笑い)

 本が出たのが今年の一月で、三月には三刷になったでしょ。出版社は喜んでいるんだけど、私にとっても“意外な展開”で驚いているんです。(笑い)

 「死の準備」を大急ぎでする

 大腸ガンの手術を受けたのが一昨年の九月で、医師から「あなたの余命は、あと半年から一年」と宣告されたのね。じゃあ、その半年間に大急ぎで「死の準備」――まず歌舞伎を見よう、エッセー集を書こう、と思ったんです。

 それから形見分けなどの身辺整理をし、好きな旅行などもしながら、一日に五時間もパソコンに向かって四苦八苦の原稿を書いてきて、気がついたら一年がとうに過ぎていた。(笑い)

 そして、毎日が、気分爽(そう)快、食欲旺(おう)盛。「死の準備」は着々と進み、すべて万端OKなのに、死の兆候の自覚症状は“意外や意外”いっこうに出てこない。

 親しい医師に「医者の言うことはちっとも当たらない」と文句を言ったら、「医者の言うことは天気予報のようなものです」と言われたけど、このごろの天気予報は結構当たるのにね。(笑い)

 全然ショックでなかった…

 大腸ガンだと分かったのは二〇〇三年の八月、お腹が痛くないのに変な下痢(げり)。自分で「ガンだ」と直感したのね。病院で精密検査をしたら、このままでは死ぬからと大腸の一部切除、延命措置として人工肛門の手術をしてもらったわけ。

 手術して直腸には転移していないことが分かったんだけど、どうせ半年か一年の命だから再手術はしないことにしたの。人間八十歳を過ぎたら、どこかが悪くなったり、いずれ死ぬんだからと思っていたから、全然ショックでない。そのときが来たんだ、十分生きてきたし、人生「いい頃合いだ」とね。

 生きてるだけで丸もうけだ

 大学時代の同級生に「あなた偉いわね、すっかり悟りを開いて」なんて言われたけど、はじめからショックでなかったんだから、悟ったわけではない。

 今、憲法改悪の危険な動きが迫っているし、それを許さぬ「九条の会」が全国各地に広がっている状況のなかで、各地から講演の依頼がくるし、憲法を守らねば、死ぬまでたたかわなければならぬ、と思ってるわけ。

 もう一年前に死んでいたんだから、食って、飲んで、言いたいことを言ってきて「生きてるだけで丸もうけ」だもね。

 どこで倒れたって悔いはない、そう思っています。

 若者の情熱を大人は大切に

 いま人工肛門をつけている人が二十万人いるんですって、知ってる? 意外と知られていないことといえば、イラクでの劣化ウラン弾による犠牲者のこと。

 アメリカが湾岸戦争のとき使った一種の核兵器ね。厚い防御壁も貫通する破壊力があるらしいけど、いまも瓦礫(がれき)や地中から放射能が検出されている。

 そのために甲状腺の異常や白血病、ガンになる人たちがいるんですよ。イラク人だけなくアメリカ兵の中にもね。

 この前、三人の若い人たちがイラクで捕まって「自己責任だ」と非難されたけど、彼らはイラクの人たちのために活動していたんだし、高校を出たばかりの青年は「劣化ウラン弾の被害調査」に行ったんですね。

 ああいう青年を大人(おとな)たちは望んでいたんでしょう? 若者の情熱を大人がつぶしてはいけない、多少無謀と思ってもね。何もすることがなくブラブラしている若者がいるということは、大人の責任よ。

(聞き手)角張英吉
(写 真)関 次男


 〔プロフィール〕

 1922年生まれ。日本女子大学卒業(社会福祉専攻)。女学校、師範学校教官(現三重大学)、日本結婚センターカウンセリング部長をへて、日本福祉大学講師のかたわら中京女子大学非常勤講師、名古屋家庭裁判所調停委員、中部日本放送審議委員をつとめる。日本福祉大学助教授のあと衆議院議員5期15年。その間、国際民婦連評議員、いわさきちひろ美術館建設呼びかけ人などになる。
 主な著書に『未婚のあなたに』『女は度胸』『つれづれに』(学習の友社)、『豊かさとは何か』(汐文社)、『がんばって―ある日系米人革命家60年の軌跡』(共訳、大月書店)ほか
 現住所は 〒369‐1912 埼玉県秩父郡荒川村白久724の2

(新聞「農民」2005.6.6付)
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2005年6月

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