「農民」記事データベース20050606-686-07

全頭検査を危険部位の除去との
組み合わせがリスクを最低限にできる

食品安全プリオン専門調査会委員 山内一也氏


 東京大学名誉教授。日本生物科学研究所主任研究員。内閣府食品安全委員会プリオン専門調査会委員。著書に『狂牛病と人間』など多数


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 「BSEの安全対策を考える」というテーマで話をさせていただきます。日本におけるBSE対策は、大きく分けると、と畜場と農場で行われています。と畜場で行われているのは、全頭検査と、脳やせき髄など特定危険部位(SRM)の除去。農場では、牛に肉骨粉を与えない飼料規制、二十四カ月齢以上のすべての牛を対象とする死亡牛検査、それに生産履歴を管理するトレーサビリティーがあります。

 検出限界がある

 まず一番肝心な人に対する安全対策としてとられている全頭検査とSRM除去という二つの対策について考えてみます。

 BSEが人に感染して発症する変異型ヤコブ病という病気、この感染源はBSEに感染した牛のSRMです。SRMには、OIE(国際獣疫事務局)によって指定されているSRM、まだ分かっていない未知のSRM、取り残しのSRM、それに解体時に混入するSRMがあります。

 一方、全頭検査には、と畜場における迅(じん)速検査と、これで陽性になったものを別の方法で検査する確認検査があります。このうちの一つ、ウエスタンブロット法は日本で改良されたもので、迅速検査よりもかなり高い感度で病原体を見つけることができます。

 日本では二十一カ月齢と二十三カ月齢、イギリスでは二十カ月齢の感染牛が発見されており、現在の検査法でも条件がよければ十三カ月齢でも見つかる可能性があると考えられています。しかし、いずれにしても検出限界があるのは事実です。

 二重の安全対策

 そこで二つの対策(全頭検査とSRMの除去)の意味に戻りますが、日本は全頭検査で陽性になった牛は丸ごと廃棄し、検査をすり抜けた牛についてもSRMを除去するという二重の安全対策をとっています。この結果、人に危険を及ぼす恐れがあるのは、未知のSRM、残存SRM、それに混入SRMですが、病原体が一番たまる脳を検査して見つからないくらいわずかな量であれば、こういったSRMの危険は問題にならないだろうと判断しています。

 一方、「SRMを確実にとれば検査はいらない」といった意見があります。この場合も問題になるのは、未知のSRM、残存SRM、混入SRMですが、これらは検査していないのでかなり高いレベルで汚染されている危険があります。

 私は、全頭検査とSRMの除去を組み合わせる二重の安全対策は、現在の科学でとりうる最善の方法であり、両方をやることによって初めてリスクを最低限にできると考えています。

 検査には、BSE感染牛を市場に出さず、取り除くというスクリーニングと、BSEのまん延実態を把握する目的のサーベイランスがあります。日本の場合、全頭検査はスクリーニングで、死亡牛検査はサーベイランスですが、スクリーニングは同時にサーベイランスにも役立っています。

 国際原則による

 しかし、アメリカやOIE(WTOのもとで家畜の貿易をスムーズに行うための機関)には、スクリーニングという考え方がありません。私が日米BSE作業部会で議論したときも、この根本のところで意見が合いませんでした。

 でも、スクリーニングは国際原則なのです。九六年に変異型ヤコブ病が初めてイギリスで確認されたとき、WHO(世界保健機関)が開いた専門家会議は「BSEの症状を示した牛のいかなる部分も食物連鎖に入れてはいけない」と決めました。日本の全頭検査は、この国際原則にもとづいて行われています。

 私は、この三年半の間に、医学、獣医学の専門家が協力して作ってきた日本のBSE安全対策は、世界に誇れるものだと自負しています。こういう優れた対策が、国際貿易を円滑に行うための妨げになるという理由で見直される事態は、何としても回避すべきだと考えています。

(新聞「農民」2005.6.6付)
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2005年6月

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