和歌山市のトマトハウス
小泉内閣の「構造改革特区」で
カゴメとオリックスが農業参入
消費者からそっぽを向かれる
地元農家に広がる不安
価格下落で大きな痛手
地元への経済効果乏しく
大手食品会社「カゴメ」が和歌山県で巨大なトマトハウス建設を進めています。いま全国でみられる企業による農業参入の動き。地元の農家からは不安の声が上がっています。
一面に整地された土砂が広がっている「コスモパーク加太」(和歌山市)。関西空港建設のための土砂採取跡地です。そこに、カゴメがアジア最大規模のトマトハウス「加太菜園」を建設中。コンピューターを駆使したハイテク菜園です。
ハイテク菜園も雨ごいしないと
第一期工事(五ヘクタール)は今年中に完成予定。第二期は二〇〇七年、第三期は〇九年に完成予定です。計二十ヘクタールの巨大ハイテク菜園で、年間六千トンの出荷予定。これは県全体のトマトの生産量に匹敵します。
問題は水。栽培用だけでなく、水やガスを使って温度管理するハイテクハウスならではの大量の水が必要なはず。ところが山の上のため、地下水や農業用水を利用しにくく、頼みは雨水。五千トン容量の貯水タンクを前に、加太菜園の畔柳浩社長は「雨ごいをしなければなりません」と笑います。今後、水を別の場所から引くための費用もかかるおそれがあり、文字通り“湯水のように”県民の税金が使われかねません。
加太菜園には、カゴメのほか金融会社のオリックスが三〇%出資。オリックスには「菜園経営の安定度向上や農業の競争力強化に大きく貢献し、農業への新しい金融の流れの先駆けになる」と期待されています。農業に参入する企業が増えることを見越して、企業への投融資ビジネスに対応しようというわけです。農業参入は、企業にとって大きなビジネスチャンスとなっているのです。
カゴメのために税金を大量投入
一方、カゴメの進出に、地元や近隣の農家からは不安の声が広がっています。近隣の粉河町で四十年間、トマトを作り続けている中嶋啓覗さん(65)は「トマトの価格が上がらず、大変なのに、大企業が来たら、もう終わり。消費者がみんなカゴメに流れて、われわれはそっぽを向かれる。売るところがなくなってしまうよ」と訴えます。
県が三月、農家に実施したアンケートでも、「カゴメ等の大企業によるトマトの生産・販売への進出で価格下落が心配だ」という回答が七〇%とダントツでした。
コスモパーク加太地区は、国の構造改革特区、「新ふるさと創り特区」に認められ、県の予算で土地を安く貸し出せることが可能になりました。県は、土地開発公社から同地区を一平方メートルあたり年間五百六十円で借りる一方で、カゴメには年間百円の格安で貸与。差額は、契約期間の二十年間で三十四億円にもなり、県民の税金を投入しようというのです。
消費者と協力し地域農業振興を
県が期待する「施設の建設・運営・見学に伴う経済波及効果」や「知名度・イメージアップ」についても疑問です。営業に伴う経済波及効果の試算をみると、県外には二十年間で九十四億円の効果なのにたいして、県内は十二億円と、約八分の一。養液栽培のためのロックウールや苗は県外調達。肥料や農薬も地元調達は二〇%しかなく、地元への経済効果が極めて低いのが特徴です。
松坂英樹県議(日本共産党)は「県民は、税金をカゴメに使われても、その見返りは少なく、さらに農家は、トマト価格の下落という痛みを押しつけられることになりかねない」と批判します。
近隣の打田町議会は〇四年八月に(1)誘致により販売価格が下落しないよう適切な対策を講じる(2)県内農業者の意見を尊重する―ことなどを求める意見書を採択しました。
産直に取り組んでいる紀ノ川農協の宇田篤弘組合長は「消費者の顔が見え、地域の農産物を共同で作り、提供するために、今まで以上に消費者との交流を深め、強い関係を築いていきたい」と話しています。和歌山県農民連の中山富晴事務局長は「地域農業の振興と、企業の農業参入とは相いれません。生産者、消費者と手をつないで、農家を応援する施策の実施を国や県に求めていきたい」と決意しています。
(新聞「農民」2005.4.25付)
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