「農民」記事データベース20050418-680-12

演劇

俳優座「春、忍び難きを」


人間はどう生きていくべきかを問いかける

 俳優座が上演する「春、忍び難きを」は、戦後六十年を迎える今日の視点から、敗戦直後における農地改革と戦争責任におびえる松本近郊の地主に焦点をあて、人間はどのように生きて行くべきかを問いかける作品。劇作家・斎藤憐自身の体験をもとに書かれたこん身の書き下ろしです。演出は佐藤信。ともに俳優座養成所出身です。

 昭和二十年、敗戦の年の終わり。長野県の松本近郊・里山辺村の村長であり、地主でもある望月多聞はたくさんの小作人を使っていて、この地の名士でもありました。農業を嫌って出て行った子どもたちやその家族が相次いで帰郷してきます。しかし、新婚間もない妻を残し、召集された次男はまだ帰還してきません。そんななか、農地改革の波が、この地にも押し寄せてきます。

 多聞を演じる松野健一さんは「この作品に出合えて、わくわくどきどきしている」と語ります。「農地改革の問題を地主側から描かれているのが刺激的で面白い。私は東京生まれ、東京大空襲のときは小学一年生、その後、宮崎の方に縁故疎開をしています。親父は家父長的な存在で、この多聞と似ています。私自身は新劇に入ったころはどちらかというとムシロ旗をあげていた方ですから、多聞は逆の立場にいた人物です。しかし、この作品は『耐え難きを耐え』という人間の苦しさや悲しみがよくでています。いい作品というのは頭で考えるのではなく、身についたものを引き出してくれます。その実感があります」

 多聞の妻・サヨを演じる川口敦子さんは「私は新潟の不在地主の娘でしたが、実家も親せきも全部没落しました。没落していなかったら女優にならなかった」と笑います。「終戦のとき家族を支えたのは母親でした。この作品でも、最後に残るのは女たちですので、このお話は、他の人と違った感慨があります。農地解放の数値的なことも明らかにされているので、当時の状況を知ることができました。せりふに方言のもつ温かさがあり、演出の佐藤信さんとの初めての出会いもうれしい。いい結果を出したいですね」

 ほかに武正忠明、美苗、森一、井上薫らが出演します。

(鈴木太郎)

 *5月5日〜16日、東京・六本木・俳優座劇場。一般5250円(農民連割引あり)。連絡先=俳優座 電話03(3405)4743

(新聞「農民」2005.4.18付)
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2005年4月

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