「農民」記事データベース20050411-679-07

東京オフィス街に“地下農場”

“人工光と水耕栽培”効率ばかり強調するが

 高層ビルが立ち並ぶ東京・大手町のビジネス街の一角で、人材派遣会社パソナがビルの地下で農場を運営しているというので、訪問し、担当者から話を聞きました。大手町で「農業」の取材をするとは、夢にも思いませんでしたが…。


しなびたイチゴ、青々としたトマト…

 東京駅から五分のオフィス街。地下鉄の駅から直結している大手町野村ビル(地上二十七階)の一階受付で担当者を待ちました。人材派遣会社というだけあって、ネクタイを締めたビジネスマンやOLのほか、職探しに来た、ジーンズ姿のフリーターとおぼしき若者らの姿が目立ちます。

 農業を知らない社員が案内役に

 案内役は、パソナの広報企画部社員。「農業のことはほとんど知らない」そうです。エレベーターで地下二階に下りると、きれいに並べられた机やいす、パソコン機器が目に入ってきました。

 ここまでは、ごく普通の会社のオフィスです。農場があるとは思いもつきませんでしたが、中に通されて、入っていくと、ガラス越しに植物や果物が見えてきました。最初に担当者から説明を受けます。

 「人が多く集まる大手町という立地条件を生かし、ビジネスマン、フリーターなど多くの人に、農業の魅力や楽しさを身近に感じてもらい、農業分野での雇用創出につなげたい」。大企業の人事担当者のような口ぶりです。さらに「将来、株式会社の農業参入がもっと進むでしょう。農業は、ビジネスチャンス。大企業経験者の知識、経験が生かせる分野であることを知ってもらいたい」と熱が入ります。

 政府が推奨するプロジェクトで

 このビル地下農場は、島村農水相が「できるだけの支援をしたい」という政府推奨のプロジェクト。オープンした二月十一日に小泉首相も訪れ、「すごい。農業革命だな」と言い放ちました。

 説明の途中、「今日採れたものです。どうぞ」と出されたのが、ドレッシングがたっぷりかかったサラダ菜。「小泉首相が『ドレッシングがおいしいな』と言ってましたけど」と得意げに話します。無味乾燥なサラダ菜にドレッシングの濃い味しか感じられません。

 一通りの説明後、いよいよ“農場”へ。担当者は盛んに「無菌、無農薬」を強調します。まぶしいばかりに照り付ける人工光と、水をふんだんに流す水耕栽培で育てられたイネや野菜。小さくしなびたイチゴや青々としたトマトが印象的でした。これが「農業革命」の実態でしょうか。

 まるで“工場製品”を作る口ぶり

 「電気代や水代はどのくらいかかるんですか」と聞いても、「わかりません。総工費は一億八千万円でした。年間二千万円のランニングコストを見込んでいます」と言うだけでした。

 「農業って、太陽の下で行われるものと思ってましたけど」との問いに、「天候や気候に左右される露地栽培より、効率的です」と、まるで“工業製品”を作るような口ぶりです。「将来的にはほかにも地下農場を広げ、外に出荷できるようにしたい」とのことでした。


……〈取材して〉 実際に役立つか大いに疑問……

 「台風や長雨で今年は不作だったが、来年またがんばる」という声を聞き、汗まみれ、泥まみれになりながら農作業にいそしむ農家を取材してきた者として、地下農業で「農業の魅力や楽しさ」を感じられるのか、実際の農作業で役に立つのか大いに疑問を持ちました。農業離れを生み出してきた元凶、政府の失政を何ら問うことなく、このような大企業だけが喜ぶプロジェクトに血道をあげるぐらいなら、今の悪政の下で、がんばっている農家への支援にこそもっと力を入れるべきではないでしょうか。
(K)

(新聞「農民」2005.4.11付)
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2005年4月

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