前進座公演(5月12日〜24日・東京国立劇場)「佐倉義民伝」をめぐって圧政下命をかけて農民の窮状を訴えた宗五郎の姿が感動を呼ぶ
劇団・前進座は、「佐倉義民伝」を上演します。「佐倉義民伝」は、宗五郎という農民が主人公、百姓一揆がテーマ。宗五郎を演じる歌舞伎俳優の嵐圭史さんと、農民連の佐々木健三会長、そして物語の舞台となった千葉から県連の小倉毅事務局長が、「佐倉義民伝」の魅力や農業への思いなどを語り合い、前進座と農民連の絆(きずな)を深め合いました。
語り継がれて二百数十年いまなお庶民から喝采浴びるわけは…宗五郎の生家の隣に住んでます佐々木 今年一月の全国大会では、前進座のみなさんに太鼓をたたいて華(はな)を添えていただきました。本当にありがとうございました。私も小倉さんも現役の百姓で、武骨なところがあるかもしれませんが、よろしくお願いします。圭史 こちらこそ。わたしも武骨な役はいろいろやってますから。 小倉 私は成田市にある宗五郎の生家、木内さんちの隣に住んでいるんです。木内さんも農家ですが後継者がいなくて木内さんちの田んぼを請け負って米作りをしていたこともあるんです。 圭史 えっ! そうですか。先だって宗五郎のご生家や霊堂、印旛沼の渡し場などに行ってきたところです。 佐々木 まず「佐倉義民伝」の話をお聞かせください。 圭史 数多くある前進座の作品のなかでも、「佐倉義民伝」は非常に大切にしてきた作品のひとつです。この芝居ができあがったのは江戸末期、浦賀にペルーが来航した時期で、各地で農民一揆も起きていますが、そういう時代の波をうけてこの作品が上演されました。実際の話は、江戸の前期ですから、上演した当時から二百数十年も前の話です。全国各地に義民の話があり、その象徴として佐倉宗五郎がそびえ立っていた。
涙、涙で曇る子別れのシーン農民の闘争をテーマにした歌舞伎というのは、後にも先にもこれ一本だけですね。本来、幕政に関する歌舞伎の上演は、ご法度だったのです。にも関わらず、「佐倉義民伝」が上演され大当たりする。ある意味では、時代の終焉(えん)、あらたな時代の到来を予告していたということです。それから、人間の魂のふれあい、親子の情、夫婦の愛が、実に見事に芝居に組み込まれているから、観客はもう涙、涙です。将軍に直訴すればしばり首ですが、妻子にも刑がおよぶ。それで直訴の前に、国許(くにもと)に帰って妻子に離縁状を渡さなければならない。雪の降る晩の印旛沼。渡し守の甚平衛さんが出してはいけない舟に宗五郎を乗せてさおをつきだすと、チョーンと柝(き)が入って、雪深い中を舟が進む。宗五郎はただただ拝む。その情景の美しさは見る人の涙腺を刺激しますよね。離縁状を渡すと、妻は「夫婦は来世もいっしょ」と焼いてしまう。夫婦の絆ですね。これまた泣かされますし、そのあとの有名な子別れのシーン。やっぱり見ている人の圧倒的な共感をえるわけですよ。
「現代の宗五郎」になって極刑を覚悟で悪政に立ち向かった勇気こそ佐々木 現場の農民には、文化的な豊かなふれあいがなかなか少ない。この「佐倉義民伝」は、ほんとうにいい機会になると思います。今の時代も自民党農政のもとで、農民のおかれている状況は同じなんだろうと思いますね。
今は全国に力強い仲間たちがただ、宗五郎の生きた時代は、農民の窮状を救うためにまさに命がけでした。でも今は、全国に仲間がいて、農民連という組織があり、国民との共同、そして展望を持ってたたかっているという点では、やっぱり非常に大きな違いがあります。圭史 国立劇場という、いわば国の演劇の殿堂で上演しますが、その観客層は都市住民、消費者がほとんど。いま盛り上がっているんですが、これが江戸時代の農村の話ではなく、現代のわれわれの話だからです。これから先、消費税率が八%、一〇%、一五%まで上げられるかもしれない。こんな酷税のなかで、もう生きていけないといったわけで、東京では六月に都議選を控えていますが、この選挙をたたかう候補者が、「現代の宗五郎になって勝利しよう」、そういうキャッチフレーズで活躍しているんですよ。
大型バス仕立てて観に行こうとぜひ農民連のみなさんにも「現代の宗五郎」になってもらって、おおぜい見にきていただければと願っています。ただこの時期は、農繁期にはいっちゃうんですね?小倉 千葉だと、連休には田植えが終わってるから、行けるでしょう。 圭史 そんなに早いんですか。 小倉 前進座の営業部の方に、何回も地域の総会などに来てもらっています。もうすでに観劇を検討しているところが三カ所あります。船橋や房総、そして北総農民センターでは、大型バス二台、百人を目標に取り組んでいます。また埼玉でも取り組んでいると聞いています。 圭史 ぜひ、いっそうのご協力をおねがいします。
農民の苦悩あるところ…不況・倒産、自然破壊、農民つぶし…今こそ出番だ佐々木 農民連のことをちょっとお話します。圭史 そこをわたしはぜひ伺いたかった。 佐々木 農民連のスローガンは「農民の苦悩あるところ農民連あり」で、発足以来十七年間、この気概で運動を進めてきました。最近で言えば、中越大震災。いち早く支援活動に入って全力をあげてきました。すばやく行動して、いま何を農民が一番望んでいるのかをつかみ、これにこたえようと取り組んでいるところです。
ものを作る現場に軸足を置いてもうひとつは、「ものを作ってこそ農民」で、農民が生産の現場から離れると、農民の心を失うと思っています。どんなにつらくても生産の現場でがんばろうと、ものを作るという点に軸足を置いています。日本の国民は、「輸入食品はいやだ、安全でおいしい国産の食料がほしい」と思っています。それにこたえようとがんばっています。(カラー版の新聞「農民」をわたす)
現場を踏まないと魂が入らない圭史 すばらしいですね。いま言われた「生産現場を離れてはいけない」ということは、大事ですよね。いろんな役をやりますが、現場を知って上演しないと、なかなか魂が入らない。「みなさんとの思いが、太い糸で結びついていかなきゃいけないな」と思いながら、いまのお話を聞いていました。全国をまわっていて非常に胸の痛むことが三つあります。ひとつは、どこの町に行っても商店街のシャッターが閉まっていることです。 小倉 きょう、千葉の木更津から来たんですが、ここもひどい。そごうのビルをいま壊してますよ。
減反政策は理解できませんね圭史 それから、自然破壊ですね。全国を公演していますのでよく目にしますが、伊吹山(滋賀県米原市)も削り取られています。自分の顔の半分がえぐりとられていくような体の痛みを感じますね。そしてもうひとつは、水田がつぶされていくことです。減反政策というのは、僕らにはどうしても理解しがたい。田んぼがつぶされていくことへの怒り。本当にみなさんの運動がさらに広がっていく可能性は大きいなあ。この新聞「農民」を見ながら救われる思いがしましたよ。 佐々木 ありがとうございます。
土に生きる農民像百姓に見捨てられる政治に明日はない圭史 忘れられない演目に「怒る富士」があります。江戸宝永年間に、富士山が爆発したときのこと。すそ野の御殿場では火山灰が五尺も積もって、三十年間再生ができなかったという話を、新田次郎さんが「怒る富士」という小説に書いています。その主人公の伊奈半左衛門役を私が演じました。半左衛門は代官のなかでも幕閣クラス。もう再生の道はないということで、亡所(ぼうしょ)農地切捨て、農民切捨てというのが幕府の政策です。ところが農民の土に対する愛情、「なにがあっても離れないぞ」という思いに、半左衛門が変っていくわけです。最後には、手を付けてはいけないお蔵米を農民に開放して、自らは腹を切って死んでいく。「決して民百姓を見捨ててはならぬ。また民百姓に見捨てられてはならぬ」「黄金の稲穂のかなたに仰ぐ富士の姿は、どんなにか美しかろう」と言ってね。たまらない芝居でした。
朝日迎える気持ちは共通している佐々木 いまの時期、朝の光をあびながらじっくり日の出を待つような雰囲気というのは、もしかしたら俳優さんが舞台に立つ雰囲気に似ているのかなあ、と思う時があります。冬が去って大地に春を迎え、さあ農業がんばろうっていう気持ちは、もしかしたら農家の人たちのかっこうは武骨でも一大名優と同じなんじゃないかなあ。小倉 あるね。真っ赤な夕陽が沈んでいくときとか、代(しろ)をかいた田んぼに、これから苗を植えつけるっていうとき。なんていうか、はればれした気持ちになる。
農民連の皆さんと絆強めて佐々木 大きな舞台でいま羽ばたこうという気持ちになるなあ。あれはもしかしたら農民の文化の心かな。圭史 これまで、農民連のみなさんとはエリアが違うので、精神的な絆(きずな)はあっても具体的に結びつくことがなかなかなかった。今日はいい機会になりました。 来年は劇団創立七十五周年を迎え、全国公演の記念作品に「佐倉義民伝」を出します。全国各地に出前公演をいたしますので、これを機会にぜひ取り上げていただき、運動の力にしていただければと思います。 佐々木、小倉 きょうは、本当にいいお話を聞かせていただきました。公演の成功を期待しています。
●農民連会員は特別割引となります●前進座のご厚意により、「農民連組合員特別割引料金」として、一等席九千八百円のところ、七千二百円でご覧いただけます。問い合わせ・申し込みは、前進座東京営業所 TEL〇四二二(四九)二八一一まで。 (新聞「農民」2005.4.4付)
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[2005年4月]
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