北の大地にしっかり根をはって農と福祉・健康守る町づくりに挑戦農業を育て、国民の健康を守る、希望ある二〇〇五年に――。農民連の佐々木健三会長は「健康と福祉のまち」を掲げる北海道奈井江町を訪れ、同じ酪農家の北良治町長と、農業やまちづくりについて対談し、酪農談義に花を咲かせました。
新春対談農民連会長 佐々木健三さん
北 良治(きた・りょうじ)=写真左〈写真はありません〉=1936年(昭和11年)生まれ、68歳。75年から奈井江町議会議員。83年から町議会議長。86年から町長就任、現在5期目。
町の基幹産業――農家が元気にならないと佐々木 あけましておめでとうございます。北 おめでとうございます。きょうは、同じ酪農仲間の佐々木会長と対談できるということで、いつもよりはずんだ気持ちで家を出てきました。新聞「農民」もいつも見せていただいています。 佐々木 ありがとうございます。町長は、出勤する前に牛舎に寄って来られるそうですね。 北 最近、搾乳はできませんが、しっぽやおしりを洗ったりしています。においが体にしみつかないよう気をつけています。石けん水で洗えば大丈夫ですよ。(笑い) 佐々木 町長にとって、二〇〇四年はどんな年でしたか。 北 自然災害、とくに台風で、北海道各地に被害がでました。奈井江では、稲作が順調に推移し、「いい米が取れるだろう」と期待していました。ところが、台風で減産になり、転作物にも大きな被害が出て、自然災害の恐ろしさを痛感した一年でした。加えて、農業施策の後退です。 佐々木 農家にとって、自然災害と社会災害が重なった一年でしたね。 北 そんな年だったからこそ、自治体の長としては新年に向けて、あすを示さなければなりません。奈井江町は、農業が基幹産業です。農家が元気にならないと町民が元気にならない。農家のみなさんと十分相談しながら、農家や地域が展望を持ち、がんばれるような年にしたいと思います。 佐々木 奈井江町は「健康と福祉のまち」を掲げていますね。 北 政府の地方への施策は「三位一体改革」で相当後退しています。今年は、介護保険制度見直しの年です。給付が少なくなることは心配のたねです。高齢者が健康に過ごせるように、福祉・医療の包括的な施策を実施したいと考えています。 佐々木 二〇〇五年はいい方向で進みたいですね。奈井江町は米の町と聞いていますが。 北 そうです。米は、町にとって一つの命ですが、国の施策で減反が強化され、高齢化率が高くなり、後継者も少なくなっています。後継者が希望をもって米作りができるように、町の事業として、ライスターミナルに取り組んでいます。米を超低温で籾(もみ)のまま貯蔵し、出荷時に籾すりをして、新米の味を保つようにしています。
消費者との交流で生産者も意欲がわいてくる佐々木 米流通の世界はいま混とんとしています。当初、豊作基調だったのに作況指数が九八に下がりました。それでも米価が下がるのは、政府が、古い備蓄米をどんどん出し、卸の段階で米を多く抱え込んだため、卸の買い入れ意欲が下がっているからです。米流通の規制を取っ払い、民間任せにするのが政府の「米改革」ですが、主食の米は政府が責任をもたないといけません。北 民間に任せっきりにすると、価格操作をするんですね。米は主食ですから、国が責任をもつことに、私も同感です。 佐々木 中越大震災の被災者救援活動に私も参加しましたが、被災者が一番求めているのは、おにぎりとみそ汁でした。いざというとき、米の備蓄が大事だということがよくわかりました。 北 だれでも簡単に作れるおにぎりは、震災のなかで力になり、生活の支えになる。米の大切さを再認識したのではないでしょうか。 佐々木 私たちは、まちのお米屋さんと交流していますが、後継者がなく、量販店に押されている。農家と同じ悩みを抱えています。農民連は、米を大手の流通に乗せないで、中小の流通を通じて、米屋さんや学校給食に届けようという準産直に取り組んでいます。 北 奈井江町でも、生産者と消費者とを直結させようと試みています。生産者と消費者との結びつきを強め、輸入に頼らない安全・安心の野菜を提供する。消費者にも奈井江に来てもらって、生産の現場を見てもらい、農家とふれあう。それで生産者もいい作物を作ろうと意欲がわく。交流を深めることが大事です。 佐々木 BSE(牛海綿状脳症)、鳥インフルエンザなど、食の安全に対するさまざまな問題があるなかで、消費者の信頼に応える生産者の努力が必要ですね。
牛肉輸入再開――アメリカの議論は成り立たない北 いま押し寄せている輸入農産物は、手段を選ばず生産されたもの。アメリカの牛肉がいい例です。日本では、BSEの結果、消費者の信頼をなくし、畜産農家が大打撃を受けました。ところが、ここにきて、安全対策が不十分なアメリカ産牛肉の輸入再開の動きです。アメリカは、二十カ月未満の牛は危険でないと言うが、そんな議論は成り立ちません。佐々木 日本政府は、アメリカの言いなりに全頭検査を緩和しようとしています。しかし、全頭検査の継続が農民・国民の願いです。農民連は九年前、食の安全を守るという観点から「食品分析センター」を立ち上げました。BSEの分析はできませんが、牛へのホルモン剤は分析できます。 北 アメリカでは、ホルモン剤を牛に投与するなど手段を選ばない。遺伝子組み換え食品も同じことです。消費者の信頼に応えるために、情報の公開が必要です。それが国民の命と健康を守ることになる。「健康と福祉のまち」を掲げ、その最先端にいる自治体の長として当たり前の主張です。 佐々木 健康を守ることについては、誰も文句は言えないですね。 北 主食を大事にして、食料自給率を高める努力をすることは、農業を守るだけでなく、安全・安心の食料と国民の健康を守ることなのです。健康食品などに金をかけるぐらいなら、国産の地場で生産されたものを食べることが、介護予防、疾病予防につながる。「食料自給率を高めて、安全・安心、健康な地場の食料を食べましょう」(佐々木「いいスローガンですね」)をモットーにやりましょう。これが二〇〇五年のスローガンです。(笑い)
みんなで支えあい、協力する町づくりが大切佐々木 町長の農業に対する思いを語っていただけますか。北 私は農家で生まれ、農家で育ちました。子どものころ、昼間、本や新聞を読んでいると、親から「明るいときにもったいない。仕事しろ」としかられ、晩になれば「電気なんかもったいない。消せ」と言われる。本も新聞も読むときがないんですね(笑い)。大切なことは、家族みんなで力を合わせてやらないとだめだということ。それは、農業に対する愛着がないとできないことです。 佐々木 協力し、支えあいながら、みんなで作ることが大事だという原点から、町長は、農業を守り、健康を守ることを第一に掲げていらっしゃるんですね。 北 先日、私は、内閣府に呼ばれました。そこで「地方はたいへんな役目を果たしている。いま日本の最大の課題は少子高齢化だ。高齢化率が高い農村は、少ない人数で高齢者を支えている。地方・農村は、向こう三軒両隣、お互いに協力し、支え合う風習ができている。しかし、都市に行けば行くほど、少子化が進行している。地方をおろそかにすると、少子化対策に逆行しますよ」という話をしました。奈井江町でも、子育てを支える助け合いネットワーク「キッズネットないえ」を実施しています。 佐々木 地方・農村が大事だというのは同感です。農民連の活動の舞台である農村から、都市にメッセージを発信していくことが必要ですね。
すばらしい、町の「子どもの権利条例」制定北 「健康と福祉のまち」というのは、小さな子どもからお年寄りまで、人間の尊厳を守ることが基本理念です。佐々木 町が制定している「子どもの権利条例」を拝見しました。非常に高い理念で、すばらしい内容です。 北 以前、手押し信号が子どもの手の届かないところにあった。すぐ公安委員会に伝えて、十日もたたずに、手の届くところに設置されました。これを機に、もっと子どもの言い分を聞き、子どもの目線に立とうと考えました。内部で議論が始まり、条例を作って子どもの権利を盛り込もうということになったのです。 佐々木 合併の是非を問う住民投票でも、小学校五年生以上が投票に参加しましたね。 北 そうです。子どもにも、まちづくりに参加する権利がありますから、子ども用のパンフレットを作製しました。作製にあたって職員がよく勉強しましたよ。たとえば、地方交付税交付金という言葉は小学生ではわからない(笑い)。行政言葉はゼロにして、子どもでもわかるようにする。本当に知らなければわかりやすくできません。これは子どもたちから教わったことです。だから「子どもの権利条例」は、地域づくりに大きな役割を果たしています。 佐々木 職員の方は、がんばりましたね。お年寄りや子どもを大事にすることから出発しているんですね。十年、二十年たって、町の中心になる子どもたちに町の夢を託す――大事なことです。 北 単に合併しないことを決めただけでなく、住民や子どもたちが参加したことが大切です。自律し、協力し合いながら、地域づくりをみんなで作り上げる。そういう未来展望を住民のなかに示す。われわれの取り組みには失敗もあるが、みんなで協力し、補い合ってやっていくことが新年の展望の一つです。 佐々木 ご奮闘を期待しています。 北 お互いにがんばりましょう。
(新聞「農民」2005.1.3付)
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[2005年1月]
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