お茶ブームの陰で廃業する農家増える日本茶は誇れる食文化、消費者と手携え守りたい伝統食シンポでの杵塚歩さんの発言「伝統食列車十五号」(十月二十九日、大阪)で開かれたシンポジウム「『列車』が拓く日本の食」。シンポジストの杵塚歩さん(24)=藤枝・無農薬茶の会=の発言が大きな感銘を呼びました。その内容を紹介します。
私は昨年六月、留学していたアメリカから静岡の実家に帰り、父と無農薬茶を生産しています。 アメリカ人にお茶をだしたら、紅茶感覚で砂糖をたくさん入れるのでビックリしました。でも、最近は、お茶の入れ方や茶器にこだわったお茶専門のカフェもでき、アメリカでもお茶への理解が広がっています。 一方、日本では今、お茶ブームと言われ、自動販売機にはペットボトルや缶のお茶が並んでいます。だからお茶農家は裕福かというと、それは逆でお茶生産をやめていく農家が多いのです。そして、ボトルや缶飲料の普及が進む一方で、急須でお茶を入れる習慣がなくなりつつあります。私は、地域に農民連の青年部をつくりたいと思っていますが、多くの農家は六十代、七十代で急な茶畑を上り下りして働いているのが現状です。 ペットボトルのお茶には、主に安値で仕入れた二番茶や秋番茶のスソ物のお茶が使われ、農家収入の八割を占める新茶はほとんど使われません。しかも、中国などから大量の安いお茶を輸入しています。ですからこのお茶ブームでもうけているのは、キリンやアサヒ、サントリー、伊藤園といった大手飲料メーカーだけ。皮肉にも大手メーカーのお茶ドリンク普及で、お茶農家の存続が危ぶまれているのです。そして、外国では日本茶のよさが見直されている今、本家本元の日本では、世界に誇る文化が失われつつあるというのは、なんと悲しいことでしょう。 こうしたなかで、お茶農家の対抗策は何かというと、生産者と消費者との距離を縮めること、消費者に産地を訪問してもらって、お互いに顔の見える交流だと、私は思っています。 今年の夏、東京から五十人余りの消費者グループが来て一泊していきました。お茶の葉を摘んだり、子どもたちは沢遊びをしたり、鶏の料理を一緒に作ったりしながら、どうやってどういうところで無農薬のお茶を生産しているのか、知ってもらうことがとても大事だと、この経験から学びました。 そして、農家だけではお茶は守れません。お茶の商いをしている人たちや消費者と一緒になって、日本の食文化を守り、日本の農業を守る大きな運動ができると確信しています。
(新聞「農民」2004.12.6付)
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[2004年12月]
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