「農民」記事データベース20041206-663-06

WTOは世界の農業と食糧に何をもたらしたのか 》上《

―いま世界の農民が団結してたたかう時


 農民連専従者研修会での

   インドNGO活動家  デビンダ・シャルマさんの講演


 十一月六日に都内で行われた農民連専従者研修会で、インドのNGO活動家、デビンダ・シャルマさんが「WTOは世界の農業と食糧に何をもたらしたのか」をテーマに講演しました。講演の要旨を紹介します。


デビンダ・シャルマさん
 インドのオピニオン・リーダー、研究家、分析家として活躍。インド国内のみならず国際レベルのNGO(非政府組織)五、六組織の理事も務める。民衆の側に立った民主主義提唱運動のブレーン的な役割も果たしている。シャルマ氏の著作は国際的な評価を博しており、食料、貿易政策問題に関する視野と洞察は高く評価されている。大学、研究機関、市民会議等の講演者として、インド内外で活躍中。


落ち込む途上国の自給率

 人為的余剰なのに

 FAO(国連食糧農業機関)の見積もりでは、いま世界中で飢えている人口は八億四千万人とされています。世界の全人口の半分ぐらいは一日の生活費が一ドル、つまり百十円以下という生活です。一方、先進国が乳牛に出している補助金をみると、ヨーロッパは一日三ドル、日本は一日八ドルです。

 アメリカでは、刑務所に収監されている人口の方が、農民よりも多くなっています。二〇〇三年は、農民が七十万人、服役中の人口が約二百十万人でした。この数からわかるように、アメリカではもう自給農業をやっている人はほとんどいない。ビジネスのための農業です。インドでは、ほとんどが農民で、自分たちが食べるための農業をやっています。

 故レーガン米元大統領がこんな発言をしました。「もしアメリカが、農産物の市場を常に確保できなければ、アメリカの農業の余剰は、人為的な余剰なので、アメリカの農業は滅びるだろう」。この何十年かの間、余剰をどうやって世界に売りさばくか、これが欧米の農業政策であり続けてきました。

 風刺漫画の通りに

 WTO(世界貿易機関)が一九九五年一月一日に発足してから間もなく十年です。九五年一月一日付のインドの新聞に、こんな風刺漫画が載っていました。高層ビルの間を二人が歩いている。ビル街には、モンサント、カーギル、ペプシなど食品産業の名前が書かれています。次のコマで、歩きながら一人が「WTOって何?」と聞いています。もう一人は「WTOはWe Take Over(おれたち=多国籍企業=が乗っ取る)という意味さ」と答えました。十年たって、この漫画の通りになってきたと思いませんか?

 インドの場合、六億人の農民が政府から得る補助金の額は、一年間で約十億ドル。その補助金というのも、だいたい農薬などの補助金です。

 先進国の農民は、補助金の直接支払いを受けています。一方、途上国は、多大な補助金を出すことができないので、自国の農業を高関税で守らなければなりません。ところが、実際には、関税の撤廃を余儀なくされてきました。WTOの十年間に、途上国はほとんど食料の純輸入国になり、自給率が大幅に落ち込んでしまっています。

(つづく)

(新聞「農民」2004.12.6付)
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2004年12月

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