「農民」記事データベース20041122-661-03

異常事態

不作なのになぜ米価は暴落!?

需給調整せず超古米放出で大もうけ
元凶は小泉内閣の“米改革”


政府米買い入れ、価格安定に責任もて

 俵に千円札数枚張りつけ出荷しないと…

 米が不作なのに、価格が下落する異常事態が続いています。今年の作況は、農水省発表(10月15日現在)で98のやや不良。「農業協同組合新聞」が全国のJA米担当者から聞き取り調査した結果は95で、現場の見方はさらに深刻です。(別項)

 一方、米価は不作がはっきりした後も下落を続け、10月27日の入札価格は、前月比二・七%安。昨年同時期と比べて二三%も安く、平年作だった一昨年と比べても〇・八%安でした。実際の取引では、この入札価格よりもさらに千〜二千円安というのが実態です。

 さらに、JAの仮渡金は空前の低価格(表1)。輸入米を下回る一俵(60キロ)八千円台の産地・銘柄もあり、軒並み生産費の六割前後。農家は、米一俵に千円札を六〜七枚も張り付けて出荷する深刻な状況に置かれています。

 
(表1)1万円以下の農協仮渡金がゾロゾロ(いずれも1等米価格)
産地
銘 柄
価格
北海道 きらら397 10,000
青 森 ゆめあかり 10,000
むつほまれ 9,000
あきたこまち 9,000
岩 手 いわてっこ 10,000
宮 城 まなむすめ 10,000
茨 城 あきたこまち 10,000
埼 玉 采のかがやき 9,100
あきたこまち 8,300
奈 良 ヒノヒカリ 8,000

 こうした異常事態の元凶は、「民間ができることは民間に」という小泉改革路線にそって強行している米流通 の完全自由化=「米改革」。そして、不作に便乗して百万トンを超える超古米を放出した政府の「米ビジネス」です。

 政府の倉庫は空っぽ、来秋は深刻な不足

 その結果、産地や民間の倉庫に米があふれ、政府の倉庫は空っぽという事態に。今年九月末の備蓄米は、政府自ら決めた適正水準(百万トン)を大幅に下回る五十七万トン。しかも、その七割は六〜七年前の超古米で、まともな米は国民が食べるわずか数日分しかありません。(表2)

 
(表2)9月末、政府備蓄米の年産別 内訳(万トン)
年産
数量
97
22
98
17
99
15
00
1
01
0
02
1
03
1
合計
57

 一方、二年続きの不作で、来年十月末の繰り越し米は、政府見通しをもとにした試算でも二十九万トンのマイナス。政府の超古米を主食用から隔離すると、不足はたちまち六十八万トンにふくれあがります(表3) 。来年も不作などということになれば、米パニックの再来も予想されるほどの低水準です。

(表3)来年10月末には米不足が深刻に
04年6月末在庫量(A) 267万トン
7〜10月消費量(B) 290万トン
04年10月末繰り越し(C=AーB) ▲23万トン
04年予想収穫量(D) 873万トン
うち加工向け(E) 20万トン
主食用供給量(F=DーC−E) 830万トン
主食用需要(G) 859万トン
05年10月末繰り越し(FーG)
(政府米のうち超古米を隔離すると)
▲29万トン
(▲68万トン)

 市場の暴走に悪乗り、政府までが暴走する

 〇三年産米の政府買入は、十万トンの計画に対してわずか二万トンにとどまりました。一方、超古米の放出は十一月に入っても続いており、四月からの累計は四万トンを超えています。

 農民連は、米価下落が明らかになってきた七月から、農水省に対して、「超古米の放出をやめろ」「政府米の緊急買い入れを」と繰り返し要求してきました。しかし農水省は「買いたい業者がいるから…」と、放出を続けています。

 暴落時に政府がやるべきことは、米を買い支えて需給を調整すること。ところがいま政府がやっているのは超古米を売りあびせて米価をどん底に突き落とすこと。市場の暴走に悪乗りして、政府までが暴走している――これが暴落の元凶です。

 農水省は今のところ今年産米を四十万トン買い入れる方針ですが、その一方で村上秀徳総合食料局長は千葉県農民連などの申し入れに対して「下手に買い入れると需給がしまりすぎる恐れがある」などと答えています。

 農民連は当面、政府が四十万トンの買い入れをきっちり行い、需給と価格の安定に責任を持つことを要求します。

 誰の目にもはっきり「米改革」の破たん

 「米改革」がめざす方向は、(1)主食・米に対する政府の責任を全面的に放棄し、(2)現在百七十万戸の稲作農家を八万戸程度に大リストラして、(3)米流通も大手の米業者に明け渡すこと。

 「市場原理」からいえば、不作になれば米価は上がるはず。しかし、「米改革」のもとでは、豊作でも不作でも米価は下がりっ放し。行き着く先は、外米価格並みの米価です。

 米価の暴落で作る農家がいなくなり、国産米が不足すれば、アメリカなどの市場開放要求を大手を振って受け入れられる――これが政府の腹です。備蓄米が底をつきかけているのに政府米の買い入れをためらうのも、百六十万トンを超える外米(ミニマム・アクセス米)が政府の倉庫に積み上がっているからに他なりません。

 「米改革」のメリット措置の目玉だった「稲作所得基盤確保対策」(通称「稲得」)も、当初の説明と大違い。補てん額は「積立分(農家・国)+三百円」が上限で、「基準価格との差額の五割+三百円」をもらえる保障はありません。

 「担い手経営安定対策」も破たんが必至。稲作収入が三年間の平均を下回った場合に、その差額の八割を補てんするものですが、米価下落が続けば、農家が保険料負担に耐えきれなくなるか、政府がやめてしまうことは明らかです。

 構造改革を推進する目的で地域に作らせた「地域水田農業ビジョン」と「産地づくり交付金」も大問題。今後、会計検査院を通じて、“農家リストラ”の実行を迫ってくる可能性があります。

 「米改革」のもとで農家は、減反に参加させられ、過剰米処理・稲得・担い手経営安定対策などの掛け金をゴッソリ取られ、あげくの果てが減反強化と米価暴落――これは、どこから考えても、“地獄のサイクル”です。

 農民連は、初年度から破たんが明白な「米改革」をいったん棚上げして、見直すことを要求します。


実作況 現場の目は「95」

農業協同組合新聞 JAに聞き取り調査

 同調査は、九月になって各地で台風被害などが報じられるなか、今年産米の作柄がかなり低下するとの現場の声を受けて実施したもの。「歴史的に経験がない被害」(東北=日本海側)、「稲作所得安定対策は規格外米は対象にならない。規格外が多かったからこそ生産者への補てんが必要」(九州)といった担当者の声を紹介。農水省が公表した作況98について「現場からは、作柄はもっと悪いとの声も出ている」と指摘しています。

(新聞「農民」2004.11.22付)
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2004年11月

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