「農民」記事データベース20041101-658-01

関税撤廃

豚肉だけでなく野菜・果実も大変!

日本・メキシコFTA案 今国会に提出


日本農業の重大な打撃

ウラでほくそえむ米日の巨大企業

 いま開かれている臨時国会に「日本・メキシコ経済連携協定」案が提出され、政府・与党は来年四月一日からのスタートをねらっています。

 こういう協定について、日本の経済産業省が「協定によって自動車・鉄鋼などの工業製品輸出が四千億円増える」と試算し、一方、メキシコ政府は「日本への農産物輸出が年平均一〇%伸びる」と試算しています。

 こういう試算からも明らかなように、協定は日本農業とメキシコの経済発展を犠牲にして、日本の大企業の利益を実現させるところに最大のねらいがあります。しかも、日本に輸出される農産物の大部分は、アメリカの巨大資本の支配下にあるか、総農家数の一%にも満たない企業経営的農業が生産するもの。一日十ドル(約千円)以下で暮らす家族が八〇%を超えるメキシコの小農民の利益にはまったくつながりません。

 さらに、小泉首相が協定締結にあたって「この協定を成功例にアジア諸国との交渉を進めたい」と述べたことは、きわめて重大です。昨年十月、小泉首相はメキシコとの交渉が中断すると「農業鎖国はもう続けられない。農業構造改革は待ったなしだ」とぶちあげ、日本農業をつぶしてでもFTA交渉を進めることを公言しました。

 しかも、メキシコとの協定は農産物を含むものとしては日本が最初に結ぶ協定です。これを「成功例」にタイやフィリピンなどアジア諸国との交渉を進める――。これは、日本がすでにアジアの農産物輸出のたまり場になっているという事態をさらに進め、日本農業つぶしを本格的に展開するという宣言にほかなりません。

 米国の豚肉巨大資本輸出用生産能力を2倍に

 豚肉の輸入枠は三万八千トンから八万トンに増えますが、メキシコの国土の大部分は口蹄疫汚染地域で輸出は不可能です。

 現在、対日豚肉輸出の相当部分を占めるのは、アメリカ国境近くにある全米最大の巨大豚肉資本・スミスフィールド社の子会社(ノルソン社)。同社は二〇〇四年に巨大飼料工場を建設し、母豚の飼養能力を三万八千頭から七万五千頭に倍加させ、枝肉出荷量を現在の五万五千トンから十万トンにする計画に着手しています(ノルソン社ホームページ)。

 日本・メキシコEPA協定に照準をしぼった大増産計画であることは明白です。

 即時あるいは数年後に関税撤廃されゼロに

 これまで、豚肉にだけ焦点があてられてきましたが、協定の調印を経て公表された「付属書」によれば、「その他品目」は千二百にものぼります。

 そのなかでも目につくのが、アスパラガスやブロッコリー、ピーマン、ニンニクなどの野菜とサクランボやレモン、グレープフルーツ、アボガドなどの果実、さらに冷凍野菜や果汁です。これらは即時あるいは三〜五年後に関税が撤廃され、ゼロになります。また、トマト加工品は無税枠が設定されます。

 野菜や果実のうちアスパラガスやカボチャなどは、世界九十カ国に従業員六万人を擁して、世界中の青果物を支配しているドール社がメキシコに進出しています。関税撤廃となれば、ドール社が世界展開地図を変え、メキシコで増産する可能性は大いにあります。

 さらに、冷凍野菜や果汁、保存性のある野菜については、関税撤廃を機会に、日本の大資本が“行きがけの駄賃”とばかりに開発輸入に乗り出す可能性もあります。

 また、輸出用に急増している野菜の生産拠点は、アメリカ国境近くの北西部三州に集中し、二万二千戸、総農家数のわずか〇・六%の企業的経営が担っているといわれます(京都産業大・湯川摂子教授「メキシコにおける新自由主義的政策と農村貧困層」)。

 日本の農家に重大な打撃を与える関税撤廃の裏でほくそえむのはアメリカと日本の巨大資本という構図は、豚肉でも野菜でも同じです。
関税撤廃ゾロゾロ 自由化品目薬1200
豚肉 関税率半減(2.2%)の輸入枠を設定
初年度38,000トン→5年目80,000トン
オレンジ果汁 関税率半減の輸入枠を設定
初年度4,000トン→5年目6,500トン
牛肉 当初2年間、無税枠10トン
低関税の輸入枠設定(関税率は再協議)
3年目3,000トン→5年目6,000トン
鶏肉 当初1年間、無税枠10トン
低関税の輸入枠設定(関税率は再協議)
3年目2,500トン→5年目8,500トン
オレンジ生果 当初2年間、無税枠10トン
低関税の輸入枠設定(関税率は再協議)
3年目2,000トン→5年目4,000トン
関税即時撤廃

野菜(3%)アスパラガス、カボチャ、ニンニク、ブロッコリー、レタス、ピーマン、トマトなど
果実 レモン、パパイヤ、マンゴー、アボガドなど
豆類(4.5%)ひよこ豆、ひら豆

3〜5年かけて段階的に関税撤廃

生鮮野菜 タマネギ(8.5%)、スイートコーン(6%)、メロン(6%)、など
冷凍野菜(6〜12%)
生鮮果実 グレープフルーツ
果汁 レモン、ブドウなど
混合野菜ジュース(23%、29.8%)

7〜10年かけて段階的に関税撤廃 調整野菜 マッシュルームなど
生鮮果実 ナシ、サクランボ、モモなど
果汁 グレープフルーツ、混合果汁
無税枠を設定 トマトピューレ・ペースト他トマト加工品など(16%)
※カッコ内は、実行税率

 メキシコへの譲歩アジアで拒否できるか

 さらに重大なのは、日本・メキシコ協定での譲歩が、すぐ後に続くアジア諸国との交渉に及ぼす影響です。また、ASEANとのFTA交渉をはさんで、日中間の交渉も話題にのぼりはじめています。

 「農業鎖国はもう続けられない」などという小泉内閣のもとで、アジア諸国がメキシコと同程度の譲歩を要求してきた場合、日本政府がこれを拒否するとは考えられません。

 運搬距離が短く運賃も安いアジアからの野菜・果実の輸入が、日本農業つぶしにいっそう拍車をかけることは必至です。

*  *  *

 私たちは、日本とメキシコの民衆の利益になるどころか、いくつもの危険をはらむ日本・メキシコFTA・EPA協定に反対します。


 *自由貿易協定(FTA)と経済連携協定(EPA) 自由貿易協定は特定の二国間や地域間で、実質的にすべての関税撤廃をめざす協定。経済連携協定はこれに加え、投資や労働力移動、知的財産権などの規制を撤廃する幅広い分野を含む。WTO交渉の遅れにいらだつ財界や政府が、日本農業を犠牲にして発展途上国の工業製品市場を開放させるために、FTA・EPA交渉を進めている。

 日本が結んだFTA協定第一号はシンガポール(〇二年十一月発効)で、メキシコとの協定は二番目だが、農産物を含む協定はメキシコとの協定が最初。さらに現在、韓国、タイ、マレーシア、フィリピンと交渉中で、インドネシア、東南アジア諸国連合(ASEAN)との交渉が計画されている。

(新聞「農民」2004.11.1付)
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2004年11月

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