工業品の見返りに農産物の開放要求する輸出大国ケアンズ三カ国訪問の印象を語る 高橋 千鶴子議員今年八月、衆院農水委員会の調査で、ケアンズ(主要農産物輸出国)グループの三カ国を視察した日本共産党の高橋千鶴子議員。WTOで自由貿易の拡大を主張するオーストラリア、ニュージーランド、さらにFTA(自由貿易協定)交渉が進むタイを訪問。高橋議員に、訪れた農産物輸出大国の印象を語ってもらいました。
日本政府は“食料主権”をもっと主張すべきです日本の財界と変わらない主張今回、三カ国を訪問して“なるほど輸出大国とはこういうものか”というのが率直な感想です。言葉のはしばしに、「日本は工業製品を輸出するかわりに農産物を輸入しろ」というニュアンスを感じました。オーストラリアでは、農林漁業省の事務次官と会談したほか、小麦、食肉の輸出を一元管理する政府系企業を訪問。また、牛肉、小麦製品、米菓を日本向けに輸出する日系企業数社を視察しました。 オーストラリア食肉家畜生産者事業団というのは、食肉の輸出を一手に引き受けている政府系企業です。ゼネラルマネージャーは「日本にはソニーやトヨタなどの工業技術がある。日本の自給率の向上は必要だという意見は分かるが、日本とオーストラリアは互いに補完し合うことができる」と話していました。 要するに、私たちは、トヨタの自動車やソニーの電化製品をたくさん買っているのだから、あなたたちもオーストラリアの農産物をもっと買ってほしい、という話です。なるほど、日本の工業製品を輸出する見返りに農産物の市場は開放しろという日本の財界の主張は、輸出国のそれと変わらないのだと思いました。 そのうえでマネージャーは、「われわれの懸念は、アメリカ産牛肉の輸入再開でセーフガードが発動されること。発動されないよう、ぜひ国会で検討してほしい」と述べました。たしかに面積は日本の二十倍で、人口は一五%。あり余る農産物を輸出したい気持ちは分からないでもありませんが、「国民の食料は可能な限り自国でまかなう」というのが原則です。そのために日本は、「食料主権」をもっと強く主張していかなければならないと思いました。
日系企業の存在が強硬な要求の背景それから、輸出国が日本に市場開放を強硬に求める背景には、これらの国々に進出している日系企業の存在があると思います。オーストラリアで視察したロックデール・ビーフ社というのは、伊藤ハムと三菱商事が出資して設立した企業で、肉牛の肥育場と食肉加工場を備えており、ここで肥育された四万八千頭の牛の肉の多くは、日本に輸出しています。同社のマネージャーは「オーストラリアにとって牛肉産業は、日本にとっての自動車産業のようなもの」と語っていました。日系企業が日本に向けてバンバン輸出するのですから、「多様な農業の共存」などと言っても、日本政府の主張は説得力がありません。 ニュージーランドのサットン農業大臣は会談で、自民党の松下議員が「日本は食料自給率をせめて五〇%に到達させたいと努力している」と述べたのに対して、「ニュージーランドは(日本の自給率の)残りの五〇%に挑戦していきたい」と、たっぷり皮肉を込めて返しました。完全に足元を見られているという感じです。 ニュージーランドにもたくさんの日系企業が進出しています。そのうち製材を輸出している企業を視察しましたが、「国内では利益が出ないので当地に進出した」と語っていました。一方で、木材価格の低迷で日本の山が荒れているという現実があるわけですから、日本企業の社会的責任が問われていると思います。
交渉相手のタイにきびしい姿勢みるタイでは、ソムサック農業・協同組合大臣と会談するとともに、水産流通公社と世界一の米輸出企業であるキャピタルライス社を視察しました。タイとは年内をメドにFTA締結に向けた交渉が行われていて、「日経」(10月10日付)によると、タイは米、鶏肉、砂糖、デンプンの四品目の関税撤廃を強く要求しており、日本政府は、タイが米の関税撤廃要求を取り下げれば、他の三品目の交渉に応じる考えを伝えたそうです。 現に交渉している相手とあって、タイ政府の姿勢は、一連の会談のなかで一番きつかったと思います。ソムサック大臣は「タイ人は日本に対して良い感情を持っているが、二十年前には反日感情が強かった」と述べて、「タイの農民にとってあまりにも不利なFTAになれば、国民の意識も悪くなるかもしれない」と語りました。 私は、大臣に、大冷害のときのタイ米輸入から学んだことは、ひとたびの冷害で外米を輸入しなければならない日本の食糧供給体制の危うさと、タイ米は和食にはあわないが、そういう食文化の違いを互いに認め合うことだと伝えました。 今回の視察を通じて一番感じたことは、日本は今、主食の米をはじめ、国内農業を守り、自給率を高めることに本気でとりくむのかどうか、世界から試されているということです。全国の農家のみなさんと力を合わせてがんばっていきたい。
(新聞「農民」2004.10.25付)
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[2004年10月]
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