「農民」記事データベース20041025-657-01

学校給食に地産地消を 火付け役になった町

大利根丁(埼玉県)

 埼玉県は、食健連や農民連の働きかけもあって、学校給食のすべてのパン・めんに、埼玉県産の小麦を一〇〇%使うようになり、「給食にたくさん、さいたまの農畜産物が使われているよ!」というチラシを作って、「学校給食に地産地消を」と呼びかけています。こんな埼玉県のなかで大利根町は、学校給食に地元産の米を最初に導入した町として知られています。


町が独自に農業振興策

特栽米・古代米の栽培、加工品をブランド化も

合併NO!の大きな力にも

 “わが町のことはわが町で考えて”

 埼玉県の北東部にある大利根町は、関東平野のほぼ中央に位置し、北には利根川が流れています。「たなばたさま」や「野菊」などの童謡を作曲した下總皖一(しもうさ・かんいち)の生誕の地であることから、童謡のやさしさをまちづくりに生かす「童謡ふる里づくり」を掲げています。

 二〇〇五年三月には、周辺の栗橋町、北川辺町と合併して「東埼玉市」誕生を予定していましたが、九月二十六日に行われた住民投票で、大利根町の住民は合併に「NO!」の声をあげました。この背景には、地元産米を学校給食に供給することをはじめ、「わが町のことはわが町で考えて」と進めてきた町独自の施策があります。

 給食に県内初めて地元産の米を導入

 人口は約一万五千人で、東京都心まで一時間ほど。住宅地として都市化が進んでいますが、米とイチゴ、梨づくりなど都市型近郊農業が盛んで、県内有数の穀倉地帯でもあります。「ここの大利根コシヒカリは日本一じゃ」と、誇らしげに自慢する地元の農家。青年たちが中心になって古代米(黒米や赤米、緑米)を栽培し、お母さんたち加工部会が古代米を使った特産品(まんじゅうやみそ、おこわなど)を作りブランド化を進めています。

 そんな大利根町で、地元の農民連は六年前、「この日本一おいしい地元の米を学校給食に使ってもらい、子どもたちに食べてもらおう」と町長に求めました。こうした取り組みがきっかけとなり、その年の十二月から実施、埼玉県内で一番最初に地元産の米・大利根コシヒカリが学校給食に使われたのです。

 入学式などの日には赤米のご飯を、黒米のご飯は毎月二回出しています。子どもたちはこのご飯に、「黒鬼さん、赤鬼さん」というネーミングをつけました。いま、町内のすべての小・中学校で週三回、米飯給食が実施されています。

 豊野小学校の三年一組の児童たちも「すごくおいしいと思う人は?」との問いかけに、全員が手を挙げました。そして教頭先生が、農民連の会員でこの町で米づくりをしている塚田静男さん(55)を「この人がみんなのご飯をつくっているんだよ」と紹介すると、「すご〜い!」と歓声があがっていました。また学校給食には、地元で採れた十二種の野菜や果物が使われています。一カ月の給食代は小学生で三千五百円。栄養士さんが工夫して献立をつくり、この間、給食費を値上げしていません。

 百俵の特栽米を準産直米で出荷

 町の農業振興は、農業公社と農業創生センターが中心になって行われています。農業公社では、ライスセンターの完成をきっかけに、今年から町の担い手農家に特別栽培米の栽培を呼びかけ、六十トンを生産しました。この大利根産特別栽培米は、埼玉県の「特別栽培農産物」(農薬と化学肥料の双方を五割以上削減して栽培した農産物)の認証を受け、通常の米価に千五百円上乗せして買い入れています。町の担い手農家で組織する受託者協議会は、売り先としてJAや地元のスーパーのほかに、農民連の準産直米にも百俵出すことにしました。

 また地元の農民連では最近、この町で二十ヘクタール(町で一番の規模)の米生産農家、篠塚敏雄さん(62)を会員に迎え、新婦人産直に米を五十俵、出してもらうことになりました。篠塚さんは、「消費者との交流もすすめたい」と、話していました。

 農産物自由に出荷 値段付けも自分で
               直売所

 農業創生センターは、六年前に町が整備してできた第三セクター。周辺には、休耕田を利用したホテイアオイが広がっています。同センター内の直売所には町内はもとより県外からも買い物客が訪れ、大利根産の新鮮で安全・安心な農産物を買い求めていきます。

 一袋ごとに自分で値段を付け、生産者の顔が見えるものばかり。農家会員は約百人、ほとんどが六十歳以上のお年寄りで、農産物を自由に出荷します。また、お母さんたちの加工部会が作る「野菊まんじゅう」やイチゴジャムなどの特産品も人気に。こうして年間の売上げは約三億円に達します。「お年寄りや女性の生きがいづくり」―店長の島田和幸さんはそう言います。

 こうした町の取り組みについて、地元に住む埼玉県農民連の松本慎一事務局長は、「十年前には見向きもされなかったことが、いまや国民合意になってきた。こうした運動の取り組みのなかで、町の農業を支える農民も農民連に入会するなど、新しい動きが生まれている」と話しています。

(新聞「農民」2004.10.25付)
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2004年10月

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