「農民」記事データベース20040913-651-10

小麦「すい星」を「花博」に

静岡農民連 丸山 孝男さん


育種の原点は戦後の食糧難

昔のように麦畑を復活させたい

 静岡県の浜名湖周辺では、四月から十月までの半年間、「浜名湖花博」が開催されています。「農の会」の会員でもある私は「花博」に、将来必ず来ると思われる食糧危機に備えて品種改良した、地上二メートルにもなる大型で多収穫の小麦品種「すい星」を出展栽培しました。

 「花博」は、花・農業・庭園などの過去・現在・未来をテーマにした国際園芸博覧会です。五十六ヘクタールの広大な会場には、のべ五千万株の花々と八万本の樹木、そして花と緑に関する多彩なパビリオンが点在しています。

 「すい星」が栽培された場所は、「循環の庭」という所で、生ゴミの堆肥化など環境にやさしい暮らしを提案しています。例えば、野菜クズなどの生ゴミをミミズに与え、そのフンを田畑にもどす循環農業の見本なども展示しています。ミミズのフンは、肥料としての効果のほかに、田畑の土を団粒化し、酸性土壌を中和する力も持っているのです。

 農村から多くの麦畑が姿を消して久しくなりますが、かつては稲刈りを終えて田を耕し、冬は麦を作るのが日本の農業でした。麦の根は十アールに一トンの堆肥となって土中に残ります。麦作はまさに有機農業そのものなのです。

 私が「すい星」を育種した原点は、敗戦後の食糧難の思い出です。都会は焼け野原になり、日本中が飢えと物不足という悲惨な状態。母は家に残っていた古着を持って農村に行き、いくばくかのサツマイモと交換してきました。そのとき一緒について行った私は、田舎道をとぼとぼと歩きながら子ども心に、「どんなにひどい戦争があっても、ドングリを食すような食糧難になっても、最後に生き残るのは百姓だ」と思いました。その後、農民運動に参加するようになったのも、その時の思い出があるからです。

 わが国は、自給率を高め、国民の食糧を確保しなければなりません。昔のような麦畑を全国に復活させたいと思っています。私は、初夏になって見渡す限りの小麦色の麦畑が、風に吹かれて波打つ光景に「美」を感じます。

 「美」といえば「すい星」は、穂の大きさと美しさのために、フラワーデザインの花材として高価で売れました。東京・銀座の花店で、穂が一本百円で売られているのを見て、びっくりしました。おかげで農民運動を続ける活動資金を作ることができ、まさに「花も実もある麦作り」ということになりました。

(新聞「農民」2004.9.13付)
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2004年9月

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