小麦「すい星」を「花博」に静岡農民連 丸山 孝男さん
育種の原点は戦後の食糧難昔のように麦畑を復活させたい静岡県の浜名湖周辺では、四月から十月までの半年間、「浜名湖花博」が開催されています。「農の会」の会員でもある私は「花博」に、将来必ず来ると思われる食糧危機に備えて品種改良した、地上二メートルにもなる大型で多収穫の小麦品種「すい星」を出展栽培しました。「花博」は、花・農業・庭園などの過去・現在・未来をテーマにした国際園芸博覧会です。五十六ヘクタールの広大な会場には、のべ五千万株の花々と八万本の樹木、そして花と緑に関する多彩なパビリオンが点在しています。 「すい星」が栽培された場所は、「循環の庭」という所で、生ゴミの堆肥化など環境にやさしい暮らしを提案しています。例えば、野菜クズなどの生ゴミをミミズに与え、そのフンを田畑にもどす循環農業の見本なども展示しています。ミミズのフンは、肥料としての効果のほかに、田畑の土を団粒化し、酸性土壌を中和する力も持っているのです。 農村から多くの麦畑が姿を消して久しくなりますが、かつては稲刈りを終えて田を耕し、冬は麦を作るのが日本の農業でした。麦の根は十アールに一トンの堆肥となって土中に残ります。麦作はまさに有機農業そのものなのです。 私が「すい星」を育種した原点は、敗戦後の食糧難の思い出です。都会は焼け野原になり、日本中が飢えと物不足という悲惨な状態。母は家に残っていた古着を持って農村に行き、いくばくかのサツマイモと交換してきました。そのとき一緒について行った私は、田舎道をとぼとぼと歩きながら子ども心に、「どんなにひどい戦争があっても、ドングリを食すような食糧難になっても、最後に生き残るのは百姓だ」と思いました。その後、農民運動に参加するようになったのも、その時の思い出があるからです。 わが国は、自給率を高め、国民の食糧を確保しなければなりません。昔のような麦畑を全国に復活させたいと思っています。私は、初夏になって見渡す限りの小麦色の麦畑が、風に吹かれて波打つ光景に「美」を感じます。 「美」といえば「すい星」は、穂の大きさと美しさのために、フラワーデザインの花材として高価で売れました。東京・銀座の花店で、穂が一本百円で売られているのを見て、びっくりしました。おかげで農民運動を続ける活動資金を作ることができ、まさに「花も実もある麦作り」ということになりました。
(新聞「農民」2004.9.13付)
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[2004年9月]
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