WTOは「前門の虎」農政改革は「後門の狼」》下《農水省審議会の「中間論点整理」を切る
戦後農政の二大柱は価格保障と農地制度であり、小泉「農政改革」の標的もこの二つです。 前回紹介したように「価格保障から直接支払いへ」というゴマカシに満ちた掛け声のもと、食料・農業・農村政策審議会「中間論点整理」は価格保障の“息の根”を止める提案をしています。
土地ころがしや企業農業に道開く農地制度改革もう一つの柱である農地制度については、国民の反発を恐れてか、それほど歯切れがよくありません。「中間論点整理」が提起しているのは(1)優良農地の確保、(2)農地の効率的利用の二つです。
農地減少の原因は減反強化と価格暴落農水省の予測によれば、二〇一〇年の農地面積は四百五十二〜四百六十五万ヘクタールで、二〇〇二年の四百七十六万ヘクタールはもちろん、現在の「基本計画」の目標である四百七十万ヘクタールを大幅に下回ります。ピークであった一九六〇年の農地面積六百七万ヘクタールに比べれば百五十五万ヘクタール減で、現在の稲作付面積全部に匹敵します。耕作放棄面積も十年間で一・五倍に増え、三十四万ヘクタールになっています。 「中間論点整理」は、財界ほど露骨には言わないものの、こういう状況におちいっていることを基本的には農民のせいにし、農地転用許可制度や耕作放棄防止措置の強化を提案しています。 しかし、農地転用が進み、耕作放棄が増え、さらに「担い手」に農地が集積しない基本的な原因は減反の強化と価格暴落にあり、さらに政府が進めてきた土地・国土政策が拍車をかけてきたのが実態です。 このうえ価格保障を廃止し、農家を輸入農産物価格との裸の競争にさらす政策が強行されれば、さらに農地は減少し、耕作放棄も進まざるをえません。小手先の対策ではなく、農業政策の根本的なたてなおしこそが必要です。
農地法解体をめぐる矛盾と綱引き「中間論点整理」が「効率的利用」の仕組みとして、脈絡もなくあげているのは(1)「担い手」に対する農地の集積、(2)耕作放棄の防止、(3)農地の権利移動制限の見直しの三つですが、とくに重点をおいているのは(3)です。「農地の権利移動制限の見直し」とは、農地の所有・利用を耕作する農民に限っている現在の農地法を解体的に改悪し、大企業(株式会社)の農地取得・利用に道を開くことを意味します。 「農地は耕作者みずからが所有することを最も適当であると認めて」(第一条)で始まり、「耕作に常時従事する者のみが農地を取得する権利を有する」(第三条)と展開する農地法は、「農地改革」の成果を維持し、地主制度の復活と大資本による農地所有を阻止し、乱開発から農地を守ることを目的に、農地の所有と利用を農民(家族経営)だけに限定してきました。 しかし、家族経営を「何千年も前からのビジネスモデル」として排撃の対象にするにいたった財界にとって、また、空洞化を進め、国内に甘いもうけ口がなくなった日本の大資本にとって、土地法のなかで唯一、資本の介入をはばんでいる農地法が、このうえなく邪魔になっています。 「中間論点整理」では、こういう財界の意向を反映し、「(企業の)農業への参入の阻害要因」である現在の「規制の在り方の検討を行う必要がある」と述べる一方で、これに反対する「株式会社等による農地取得は認めるべきではない」という意見に「十分留意」すべきと述べています。 ここはやや複雑です。「両論併記」ではありますが、財界の意向が先に記され、上位に置かれていることは決して軽視できませんが、同時に、内容的には、財界の意向は抽象的・部分的にしか書き込まれておらず、農地法解体に反対する側の意見は具体的に表現されています。 決してあなどるわけにはいきませんが、これは農地という根本問題については、小泉「改革」路線といえども、そう易々と踏み込むことができないことを示しているといっていいでしょう。 そのかわりに、「中間論点整理」は、農地法解体の先兵として「構造改革特区」をあげ、「弊害が生じないと認められる場合には全国展開につなげるとの方針に沿って検討」を行うとしています。 しかし、不耕作地がある地域にかぎり、農地の貸借権に限定して、企業の利用を認めた農地法の“穴あき”地帯を全国展開する道理はまったくなく、そもそも「特区」の名に反するものです。
自給率下落を検証し、抜本的な向上策の検討を審議会が「見直し」を進めている「食料・農業・農村基本計画」の最大の、そして実質的な中身は食料自給率向上目標であり、二〇一〇年までにカロリー自給率を四〇%から四五%に引き上げるはずでした。しかし、目標達成の見込みはまったく立たないどころか、カロリー、穀物、米、野菜、果 実、牛乳・乳製品、肉の自給率は基準年の一九九七年を下回っています。(表)
一方、農水省の世論調査に対し、九三%の国民が自給率の異常な低さに不安を感じ、八九%が自給率を「大幅に引き上げるべき」と答えています(農水省「食料自給率目標に関する意識・意向調査」、二月四日公表)。 基本計画の本来の目的からいっても、世論の動向からいっても、当然最優先で「見直し」に着手すべき自給率向上目標は秋以降の検討に先送りされました。 この間の事情を、農水省は審議会の冒頭で次のように説明しています。「現行基本計画上は食料自給率が唯一の指標になっているが、食料自給率向上は、食生活の改善なしに具体化しないので、食料自給率目標は施策の具体的な指針にならない。そういう意味で、担い手とか農業構造といったような政策展開に当たっての指針を盛り込みたい」(皆川企画評価課長、一月三十日)。 つまり(1)自給率がどうなるかは、消費者が“食い改め”て食生活を改善するかどうかの結果論なのだから、政策の指針にはふさわしくない、(2)自給率目標に代えて、農民リストラの構造目標を「基本計画」の指針にする、さらに(3)とりあえず二〇一〇年までの目標を、二〇一五年に先のばししたうえで、目標そのものを葬りさる――というわけです。 財界や政府は「自由化できる国づくり」をねらい、価格保障と農地制度が「自由化できる国づくり」の最大のネックだとして解体を要求し、その検討を先行させたというのが、この一年間の審議会の経過でした。 こういう逆転をやめさせ、日本農業を再建し、自給率向上を本格的な軌道に乗せるうえで不可欠な政策の柱――(1)野放しの農産物輸入に歯止めをかける、(2)農家の生産コストをつぐなう価格保障を復活する、(3)大企業の農地支配を許さず、家族経営を応援する――の実現こそが必要です。 (おわり)
(新聞「農民」2004.9.6付)
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[2004年9月]
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