WTOは「前門の虎」農政改革は「後門の狼」》上《農水省審議会の「中間論点整理」を切る
小泉「農政改革」の青写真を検討している農政審(食料・農業・農村政策審議会)は八月十日、「食料・農業・農村基本計画」の見直しに向けた「中間論点整理」をまとめました。審議会(企画部会)は九月から議論を再開しますが、当初予定されていた十二月の「最終報告」を見送り、「見直し基本計画」の形で結論を出す予定です。 「自給率向上」には一言も触れず、強調しているのは「貿易自由化の流れ」に対応しうる「構造改革」のスピードアップだけ。こんな「中間論点整理」で、日本農業はどうなるのか――。
担い手蹴散らし、食料自給率引き下げの「経営安定対策」亀井農水大臣は「WTOの枠組み合意をステップとして、競争力の強化に向けた農政改革をスピード感をもって進めたい」と述べました(八月三日)。つまり、WTO交渉で白旗を挙げて妥協するための準備として、農政改革をスピードアップするというわけです。その端的なあらわれが、「幅広い農業者を一様にカバーする」価格保障政策を廃止し、「対象を担い手(プロ農家)に明確に」しぼって実現する「経営安定対策」。 その中身は(1)輸入農産物との価格差の一定割合を助成する「諸外国との生産条件格差是正対策」と(2)農家の収入・所得が下がった際に一定割合を補てんする「収入・所得変動緩和対策」(従来の「稲作経営安定対策」に似たもの)を「二階建て」で実施し、(3)かわりに、全農家を対象にした麦作経営安定資金や大豆交付金を廃止するというもの。 対象になる作物は当面、麦、大豆、テンサイ、でんぷん原料用バレイショ。米は高関税を維持している間は対象外です。
麦・大豆の粗収益は三分の一に激減第一に問題なのは、対象からはずされる大部分の農家の収入が激減することです。たとえば小麦の場合、六十キロ当たり販売価格三千百七十六円に対し、財政負担で支払われる麦作経営安定資金は六千八百八十六円で、粗収益の六八%を占めます(〇二年産ホクシン)。大豆も販売価格五千百三十二円に対し財政負担は九千四百五十円(粗収益の六五%)。(上図〈図はありません〉)麦作経営安定資金や大豆交付金が廃止されたら、対象外農家の粗収益は三分の一に激減! これではとくに転作麦・大豆は壊滅し、食料自給率向上など絵に描いたモチという事態になるのは必至です。
対象農家は一割以下第二に、対象になるのは認定農業者と、きびしい要件を満たす集落営農だけです。認定農業者は全国で十八万で、二百九十八万農家の六%にすぎず、全国に約一万ある集落営農組織で要件を満たすのは三月末で二十二しかありません。農業の担い手を育てるどころか、蹴散らすだけ。こんな政策に未来はありません。
米も三千―四千円の輸入米と裸の競争へ第三に、米については「関税により価格水準が維持されている」ため、当面は適用外とされています。しかし、逆にいうと、WTO交渉で敗北すれば、一俵(六十キロ)三〜四千円の輸入米と裸の競争にさらされることになります。
「プロ農家」は安泰か?第四に、経営安定対策の対象になる農家は安泰なのでしょうか? 麦や大豆の販売価格の二倍近い補助金が「プロ農家」に支払われていることが「透明」にされれば、財界やマスコミ、アメリカの「過保護」攻撃が激化することは必至です。現に財界は、制度ができる前から、経営安定対策を「激変緩和のための時限措置」にすべきだと要求しているし、「中間論点整理」も「対象経営の要件や支払単価の設定については、構造改革の加速化を促すため、一定期間ごとに見直す」ことを要求しています。
価格保障の復活・充実こそが世界の流れアメリカやEU(ヨーロッパ連合)をはじめ世界では、価格保障の復活・維持+直接支払いが主流です(下図〈図はありません〉)。「日本型直接支払い」などと称して、九割以上の農家を破滅させる政策をとろうとしているのは日本だけです。あまりにも冷酷な提言に対し、審議会では「最小限の価格保障は残すべきだ」という異論が相次ぎ、自民党内からさえ「兼業農家切り捨て」との批判が出始めています。 五百ミリリットルのペットボトル一本の「水」は百五十円ですが、同量の米はわずか九十円です。 アジア民衆キャラバンで来日したギルバートさんは「日本の水は高く、米は安い!」と驚いていましたが、「輸入農産物に対する競争力の強化」とは、九十円をさらに五十円、三十円に引き下げることを意味します。水よりも安い米! これで、いったい何が「構造改革」でしょうか! (つづく)
(新聞「農民」2004.8.30付)
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[2004年8月]
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