争点すべて先送り/肝心部分はボカすWTO交渉「枠組み合意」にみる明と暗一体なにが、どうなった?!
「玉虫色のきわみ」「ガラス細工のような合意」――八月一日、スイス・ジュネーブのWTO本部で開かれていた一般理事会は、今後の交渉の大枠を示した「枠組み合意」を決定しました。この合意を受け、来年春以降、交渉が本格化し、二〇〇五年十二月に予定されている香港でのWTO閣僚会議を経て、二〇〇七年一月前に最終決着することがもくろまれています。
決裂恐れて玉虫色に徹底今回の「枠組み合意」は、無謀・無制限な貿易自由化をあくまで進めようとする多国籍企業とアメリカの思惑と、WTOのもとでいっそう拡大した貧富の格差、農業破壊などの事実をもとに、民衆と発展途上国の利益を重視する新しい貿易ルールを求める動きが真正面からぶつかりあい、その結果、やや複雑でわかりにくいものになりました。「枠組み合意」には、私たちにとって「明」と「暗」の二つの側面があります。 一つは「合意はなされたが、交渉はこれから新しく始まるようなもの」という指摘が示す側面です。これは九九年シアトル、二〇〇三年カンクンのWTO閣僚会議の決裂を受け、「今回決裂したらWTOは再起不能になる」という危機感から、争点をすべて先送りにし、合意内容を徹底的に玉虫色にしたためです。たとえはよくありませんが、超未熟児のお産に近いといっていいでしょう。 実際、合意文書は昨年九月のカンクン合意案に比べて四分の三の分量で、肝心の部分は徹底的にボカしており、すべては今後の交渉にゆだねられています。 もともとWTO交渉の進め方は、(1)交渉の原則を定める「枠組み合意」、(2)これにもとづき、数字を含む共通の基準を定める「モダリティ合意」、(3)そして各国が関税や国内措置の削減率を提示しあい、それをたばねる「最終合意」の三つの段階があります。 「歴史的な合意」という評価もありますが、今回決めたのは、(1)の「枠組み合意」にすぎません。カンクンWTO閣僚会議がめざしたのは、(2)の「モダリティ合意」でしたから、段階が一つ逆戻りし、振り出しに戻ったというのが実態です。
追い込まれたのはアメリカもちろん玉虫色であるからには、今後の交渉で無謀な貿易自由化を強行する本音が飛び出す可能性はおおいにあります。同時に、民衆と発展途上国の利益を重視する新しい貿易ルールを求める運動が、シアトル・カンクンに続いて、グローバル化・自由化路線に「待った」をかけたことは間違いありません。 今後、きびしく複雑なせめぎ合いになるのは必至ですが、追い込まれているのは私たちではなく、多国籍企業・アメリカなのだということに、おおいに確信を持つ必要があります。
ミニマム・アクセス成果どころか改悪ももう一つの側面(「暗」の側面)もリアルに見ておくことが重要です。政府・与党は「日本の主張を貫徹する土台ができた」(松岡・自民党農林水産物貿易調査会副会長)などと、「合意」を手放しで評価しています。
大甘な日本政府の交渉姿勢しかし、こんな大甘な姿勢で今後の交渉に臨まれたのでは大迷惑です。第一に、今回の合意が玉虫色になったとはいえ、関税のいっそうの引き下げと輸入枠の拡大など、農産物の野放図な自由化をさらに進める基調にはなんの変化もありません。 アメリカやWTO本部の最終的なねらいは、関税の大幅引き下げを通じて「関税ゼロ」にすること。こういうねらいが通れば、上図〈図はありません〉のように、日本の稲作農家は外米の輸入原価との競争に丸裸でさらされることになります。 第二に、WTO発足後の九年間で、日本にとって最大の問題である米のミニマム・アクセス輸入の削減・廃止問題は、なんの前進もありません。 たしかに今回の合意で、日本の米やEUの乳製品などが「センシティブ品目」として、関税引き下げの「例外」扱いされる方向が打ち出されました。自民党が「成果」といっているのは、これをさしてのことです。 しかし、(1)ミニマム・アクセス問題はWTO農業協定のなかで最も矛盾に満ちたもので、その最大の被害者である日本こそがミニマム・アクセスの削減・廃止を打ち出す資格があるはずです。ところが政府は、この問題を交渉の場にまともに持ち出していません。 (2)「センシティブ品目」(一般には「重要品目」)は、せいぜい「慎重な扱いを要する品目」という程度の意味です。これは、「例外」として関税引き下げを猶予する、しかしその代償にミニマム・アクセス枠の拡大を要求される余地が残っているという点では、「成果」どころか、現在のミニマム・アクセスをさらに改悪するものといわなければなりません。また、引き下げを猶予するといっても、引き下げがゼロなのではなく、他の品目に比べれば下げ幅が小さいというだけのことです。 (3)最終的に「センシティブ品目」の選定を各国にゆだねることにはなりましたが、アメリカはこれに強硬に反対しており、今後の交渉次第です。また、弱腰の政府が、米以外の「重要品目」を「センシティブ品目」にするのかどうかも大問題です。
食糧主権確立の主張をウルグアイ・ラウンド当時、アメリカの農務長官・通商代表を務めたクレイトン・ヤイター氏は“関税化(自由化)によって、日本などを関税引き下げ交渉の場に追い込んだ”と戦果を誇っています。いま進んでいるのは、こういうアメリカの戦略の枠内のものです。破たんしつつあるWTOルールに対する対案――食糧主権にもとづく貿易ルールの確立こそが必要であり、日本政府はこういう立場から、協定の抜本的な改定を堂々と求めるべきです。
(新聞「農民」2004.8.16付)
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[2004年8月]
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