「農民」記事データベース20040628-641-01

町内産充足率を上げようと給食食材の共同集荷をはじめた 大東町 岩手

地元で採れる物を採れる時期に伝統の料理法で
食べ物を直接見て触って味わって

調理員のがんばりと技術あってこそ

 「地産地消」という言葉もなかった十八年前から、学校給食に地場産農産物を取り入れてきた岩手県南部の大東町。その取り組みをさらに充実させようと、町ぐるみの新しい試みが今年六月から始まっています。


町ぐるみで充実へ努力

 いい物を出荷しないとね

 平日の毎朝八時、農協の選果場の前に、軽トラが続々と集まってきます。町内三カ所の学校給食センターで使う町内産野菜の共同集荷があるのです。真新しいコンテナに入ったネギ、キャベツ、青大豆。「品質は学校給食に十分でしょうか?」。大東産直センター事務局長の伊東庚子さんの声に、農家は真剣な面持ち。「ウン、みんな立派なもんだ」という大東町農林振興課の小崎龍一さんの言葉で、笑顔が広がりました。

 これまで大東町の学校給食に野菜を供給していたのは大東産直センターだけ。しかしこの六月から「町内充足率をもっと上げよう」と、「追分おいしん母(おいしんぼ)」と「大東有機農産物供給組合」も加わった共同集荷が始まりました。

 二つの生産者団体の農家にとっては、初めてのことばかり。この日初めて出荷した追分おいしん母の那須一乃さんと菊地公代さんは「あのキャベツ、いつ植えたの?」「種類は?」と、栽培技術の向上にとても熱心です。その熱心さに、学校給食への供給では先輩の菅原正子さんたちも「子どもたちが食べるんだから、いい物を出荷しないとねぇ」と、ものづくりへの思いが新たまります。

 大原給食センターでは栄養士の新田廣子さんや調理員が準備万端(ばんたん)で、野菜を待ち構えていました。「この前のたらっぽ(タラの芽)、すごくおいしかった。苦いのに子どもたちも残さず食べたよ。苦労したことがあったら、ぜひ教えてね。給食だよりに書くから」――搬入時のこの会話が「何よりの楽しみ。もの作りの元気のもと」と菅原さんは言います。

 新田先生は「学校は社会を学ぶところ、給食は食べ物を学ぶところ。地元で採れる物を、採れる時期に、郷土に伝わる作り方でおいしく食べさせたい。食べ物を直接見て、触って、舌で味わうことは、生きていくための五感を育てるうえで、とても大切なことなのです」と強調します。

 調理に手間のかかる地場産野菜の使用を可能にしているのは、「子どもたちのために」一致団結している調理員さんのがんばりと技術です。今回の共同集荷の取り組みも「農家にとっては毎朝、コンテストで出来ばえを評価されているような大変なことなんだから、調理する私たちもがんばろうね、と話し合っている」と新田先生は言います。

 町の農振課が積極的になる

 今年六月からは、この地場産野菜の取り組みの事務局を、町で独自に設置している大東町農業技術センターが担うことになりました。町の農林振興課が学校給食に積極的に取り組むようになった理由を、小崎さんは「子どもたちに地域のものを食べさせたいという一言に尽きます」と説明します。「子どもが減っても、農村部だからこそできる取り組みがあるはずです」と小崎さん。共同集荷の場所を、農家が集まる農協の選果場前に設定したのも「事業を継続させていくためにも、自信持って子どもたちに食べさせたいという農家に集まってもらいたい」との考えからでした。

 十八年前、給食センターの栄養士で、地場産給食に初めて取り組み、退職後は大東産直センターで生産者の立場から地場産給食に携わってきた伊東さんは、今回の町の積極的な姿勢に万感の思いを込めて「良かった」と言います。「味覚の育つ子どものころの食文化は、その人の一生の基になる大切なものです。もっと町の充足率を上げられるよう、取り組んでいきたいですね」。

(新聞「農民」2004.6.28付)
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2004年6月

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