「農民」記事データベース20040531-637-05

ビア・カンペシーナ東南・東アジア会議

アジア中で食糧主権が侵されている

WTO・FTA交渉の下で連帯広げ地球規模の運動よびかけ


 「アジア中で国家と民衆の食糧主権が侵害されている。農業国と工業国、農地改革が終わった国と実施されていない国という違いはあるが、WTOの新自由主義的政策のもとで、アジア中の農民は同じ問題に直面している」――世界的な農民運動組織、ビア・カンペシーナは東南・東アジア会議を五月五日から七日までインドネシアで開き、こういう認識を共有するとともに、運動と希望をグローバル化することを呼びかけました。

 会議が開かれたパダン市はスマトラ島の中央部にある港町。ほぼ赤道直下にあたりますが、熱帯特有の激しいスコールが続いたせいか、意外に涼しいのが印象的でした。

 会議に参加したのは、インドネシア(FSPI)、フィリピン(KMP)、タイ(AoP)、ベトナム(VNFU)、韓国(KWFA=女性農民協会、KPL=農民連合)、マレーシア(PANGGAU)、東チモール、日本(農民連)の八カ国・九組織。今回の会議で東チモール(HASATIL)の加盟が承認され、ただ一つの「パートナー組織」となった農民連からは真嶋良孝副会長が参加しました。

 ビア・カンペシーナの会議の特徴は、各国の農民と農業の事情や各組織のたたかいを対等平等に交流しあい、認識を共有すること。国・地域でまったく条件が異なる運動を地球規模の連帯感をもって進めるために、ビア・カンペシーナが最も大事にしている原則です。

 農民連がアジア会議に参加するのは二〇〇二年四月に続いて二度目ですが、この間に韓国の二組織とマレーシアが加盟するなど、ビア・カンペシーナの活動は着実に前進しています。

 幅広い連合作りFTAに大反撃

 とくに印象的だったのは、地域自由貿易協定(FTA)をめぐるタイのたたかいです。

 昨年九月のWTOカンクン閣僚会議の破たん後、タイ政府はアメリカとのFTA締結に乗り出していますが、タイAoP(貧困者連合=農民運動組織)は「これ以上、多国籍企業に市場を支配され、『民営化』されたら、タイの豊かな資源は枯渇してしまう」と、消費者組織や学者・研究者組織などに呼びかけ、幅広い国民連合をつくって反撃しています。

 別の情報によると、FTA締結にかけるアメリカのねらいの一つは、遺伝子組み換えのトウモロコシや大豆をタイに押しつけること。また、半年前に動きだしたタイ・中国FTAによって「多くのタイ農民がすでに破産に追い込まれている」「アメリカとのFTAはタイの自給的経済システムを破壊し、小農民と企業を傷つける」という非難の声が国会であがっています(バンコク・ポスト三月十八日)。

 私(真嶋)は「日本・メキシコFTAで傷つくのは、メキシコ経済と日本農業であり、その一方、メキシコの小農にはなんの利益にもならない」ことを報告し、今後、タイや韓国、フィリピンなどと日本とのFTA交渉が進むが、連携して運動を進めようと訴えました。

 韓国農民連合もコメ自由化阻止

 二つの組織が加盟し意気あがる韓国の農民運動にとって、当面する最大の課題は、「米輸入自由化」と韓国・チリFTAです。

 WTO協定では日本・韓国ともに「米関税化」を飲まされ、特例措置を受け入れました(日本が六年間だったのに対し、韓国は途上国扱いを受け、十年間)。この特例措置が二〇〇四年で期限切れになるため、韓国農民連合(KPL)は「米輸入自由化反対、食糧主権を守れ」を中心スローガンに運動しています。

 「米は八〇%の農民が作り、民族の魂であり文化だ。韓国の食料自給率はすでに二七%。米輸入自由化阻止を。価格保障を。食糧主権の確立を」――KPLのムン・キュンシク議長の言葉に、私は日本にいるかのような錯覚におちいりました。

 四月に行われた総選挙では、保守勢力が大敗し、韓国の国政史上初めて改革進歩勢力(民主労働党)が国会に進出しました(得票率一三%、十議席)。このうち二議席はビア・カンペシーナ加盟の二組織の代表だとのこと。「こういう力関係も活用し、さらに強大な民主的組織をつくってがんばりたい」という決意を表明していました。

 農民連の地産地消運動を紹介

 全国食健連と農民連が四月に開いた「食糧主権とWTOに関する国際シンポジウム」にパネリストとして出席したヘンリー・サラギ氏は三日間、会議の議長をつとめました。問題提起をし、全員が発言するよう心配りをし、そのうえで適切な結論を引き出すという名議長でした。

 同時に、初来日の印象が消えないのか、サラギ氏は、たびたび日本での見聞を語り、こちらが気が引けるほど。

 たとえば、日本の産直運動と学校給食に地元産の農産物をという運動について「これはオールタナティブ(もう一つの)・マーケティングだ」「ローカルな生産・ローカルな消費という食糧主権の運動の一部をなすものだと思った」という具合です。

 これにはタイやベトナムの代表が高い関心を示し、さらに韓国KWFAの代表ヨン・ゲムスンさんは「九二年から学校給食に国産農産物を使うよう要求してきた。今は、国産農産物の使用を義務づける法律を作るよう、多くの組織と一緒に運動している」と話すなど、大いに盛り上がりました。

 「日本は農地改革が完了し、農民保護政策も実施されていて、うらやましいと思っていた。しかし、その日本で農地改革の成果をひっくり返す動きが出ており、農民の借金が増え、自殺者まで出ていることを知った。条件は違うが、新自由主義、WTOのもとで、アジアと世界の農民は一緒にたたかわなければならない」――サラギ氏は最後にこう強調しました。

(新聞「農民」2004.5.31付)
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2004年5月

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